2026年4月14日

こんにちは。仙台駅前でIBD(炎症性腸疾患)診療と内視鏡診療に力を入れている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。当院は、プライバシーに配慮した個室空間で、大学病院レベルの専門的な治療をスムーズに受けていただけるクリニックを目指しています。
「薬を飲んで症状が落ち着いているのに、どうして何度も検査をするの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。潰瘍性大腸炎やクローン病の患者さんにとって、切っても切り離せないのが定期的な「血液検査」ですよね。
IBDを長期的にコントロールするためには、症状が落ち着いて安心するだけでなく、炎症が残存していないか常にチェックすること(これを「モニタリング」と言います)が重要です。このモニタリングを続けることが、「普通の日常生活」を長く送り続けるための鍵なのです。
また、多くの患者さんが「CRP(シーアールピー:炎症の数値)」の結果で一喜一憂されると思います。実はIBDの診療において、CRPだけでは病状を正確に判断できないケースがあることをご存知でしょうか?
今回は、モニタリングの本当の意味と、当院で用いている最新の検査値「LRG(エルアールジー)」についてお話しします。過去の記事をまだご覧になっていない場合は、「潰瘍性大腸炎治療の全体像」や「クローン病治療の全体像」もご覧くださいね。
過去記事:潰瘍性大腸炎の治療を総括する:基本の5-ASA製剤から最新治療までのステップ
過去記事:クローン病の治療を総括する:早期の「徹底管理」が未来を分ける理由
1. モニタリング=「症状だけでは分からない炎症」の監視
IBDの治療において、モニタリングとは「腸の中の炎症を、客観的な検査値や画像で把握し続けること」を指します。なぜこれが必要なのでしょうか? それは、「症状(腹痛や血便)」と「腸の炎症」は、必ずしも一致しないからです。
患者さんが「もう大丈夫」と感じていても、腸の粘膜にボヤのような炎症が残っていることがあります。このような「症状だけでは分からない火種」を放置しておくと、ある日突然大きな火事となって症状が現れ、入院や強い薬が必要になる「再燃」を引き起こしてしまうのです。
火事が起きる前に、ボヤの段階で火種を見つけて消し止めるためには、モニタリングが不可欠なのです。
2. 「CRP」の弱点と、最新の検査値「LRG」の登場
炎症を監視する火災報知器として主に使われているのが、血液検査の「CRP」です。しかし、IBDのモニタリングにおいて、CRPには2つの大きな弱点があります。
感度が低い
腸に小さなボヤ(炎症)があっても、数値が上がらないことが多い。
腸以外にも反応する
風邪やケガなど、腸以外の炎症でも上がってしまう。
そこで登場したのが、新しい血液検査の指標である「LRG(ロイシンリッチα2グリコプロテイン)」です。LRGは、腸の粘膜がダメージを受けた時に、その現場(腸)から直接放出される物質です。CRPでは捉えきれないような炎症でも敏感に数値が動くため、「腸専用の高感度センサー」と言えます。
3. なぜ当院では「LRG」を主役にするのか
CRP以外で炎症を把握する検査値として、他に「便中カルプロテクチン」があります。これも非常に正確な検査値ですが、便検査のため「家で便を採って持参する」という手間がかかります。
「採便を忘れてしまった」「仕事の合間の受診なので、便の容器を持ち歩くのが難しい」というお声を多く伺う中で、当院が重視しているのは「継続しやすさ」です。
LRGであれば、いつもの定期的な血液検査で同時に調べることができます。患者さんの負担を最小限に抑えつつ、「今の炎症の状態」を確実に数値化(モニタリング)できるため、当院ではLRGを積極的に活用しています。
4. モニタリングの究極の目的は「カメラ検査を減らすこと」
もちろん、検査値を追っていくこと自体が目的ではありません。LRGなどの検査値で「炎症の火種」を高い精度で監視できていれば、「今は腸の炎症が安定しているから、大腸カメラ検査は少し先延ばしにしても大丈夫」という科学的な判断が可能になります。
炎症を把握するだけでなく、がんを発見するためにも、大腸カメラ検査は絶対に必要なものです。しかし、炎症を正しく把握(モニタリング)することは、結果として「カメラ検査の回数を必要最小限に絞り、患者さんの負担を減らす」ことにつながるのです。
過去記事:大腸カメラ検査を定期的に受ける本当の理由:炎症を「ゼロ」にして将来のがんを防ぐ
5. まとめ
IBDは長く付き合っていく病気だからこそ、「再燃」という火事を防ぎ、平穏な時間を長く保っていただきたいと思います。
「CRPが低いから安心」で終わらせず、LRGなどの新しい武器を使って、賢く正確にモニタリングしていきましょう。今の治療や検査スケジュールに不安がある方は、ぜひ一度ご相談ください。
引用文献
1. 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和7年度改訂版
2. Peyrin-Biroulet L, Reinisch W, et al. Clinical disease activity, C-reactive protein normalisation and mucosal healing in Crohn’s disease in the SONIC trial. Gut. 2014;63(1):88-95.
3. Dulai PS, Singh S, et al. Prevalence of endoscopic improvement and remission according to patient-reported outcomes in ulcerative colitis. Aliment Pharmacol Ther. 2020;51(4):435-445.
4. Shinzaki S, Matsuoka K, et al. Leucine-rich Alpha-2 Glycoprotein is a Serum Biomarker of Mucosal Healing in Ulcerative Colitis. J Crohns Colitis. 2017;11(1):84-91.
5. Shinzaki S, Matsuoka K, et al. Leucine-rich alpha-2 glycoprotein is a potential biomarker to monitor disease activity in inflammatory bowel disease receiving adalimumab: PLANET study. J Gastroenterol. 2021;56(6):560-569.