2026年6月30日

こんにちは。仙台駅前でIBD(炎症性腸疾患)診療と内視鏡診療に力を入れている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。当院は、プライバシーに配慮した個室空間で、大学病院での経験を活かした専門的な治療をスムーズに受けていただけるクリニックを目指しています。
これまで、潰瘍性大腸炎やクローン病のお薬や生活する上でのお困りごとについてお話ししてきました。今回はまた少し視点を変えて、治療を続けるうえで知っておいていただきたい「感染症予防」、その中でも特に「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」とワクチンについて整理します。
過去記事:薬の仕組みを知ろう(②JAK阻害薬編)
1. 帯状疱疹は「水ぼうそうウイルスの再活性化」
帯状疱疹は、子どもの頃にかかった水ぼうそう(水痘:すいとう)のウイルスが原因です。
水ぼうそうが治った後も、このウイルスは体内から完全には消えず、背骨の近くにある神経節(しんけいせつ:神経の集合体)に潜んでいます。いわば「冬眠」した状態にあります。
普段は免疫システムがしっかり見張りをしているため、ウイルスは大人しくしています。しかし、加齢や疲労、そして免疫を抑える治療などで「見張り(免疫)」が手薄になると、ウイルスが再び目を覚まし、神経に沿って暴れ出します。これが帯状疱疹です。皮膚に痛みを伴う赤い発疹や水ぶくれができますが、体の片側に帯状に出るのが特徴です。
2. なぜIBD治療中は帯状疱疹のリスクが上がるのか
IBDの治療では、炎症を抑えるために免疫の働きを部分的にコントロールするお薬を使います。そのため、どうしても「ウイルスの見張り番」の機能が普段より弱まりやすくなります。(そもそもIBD患者さんは、「IBDという病気で有している」だけで帯状疱疹のリスクが高いと言われてます。)
特に注意が必要なのが、過去記事でもご紹介したJAK阻害薬です。JAK阻害薬は細胞内のシグナル伝達を幅広く抑える仕組みのお薬であり、他の高度な治療(アドバンスド・セラピー)と比較しても、帯状疱疹を発症するリスクが高いことが報告されています。また、同じJAK阻害薬を服用していても、(欧米人と比べ)日本人はさらにリスクが高いとされています。
「だから治療をやめるべき」ということでは決してありません。炎症をしっかり抑えることの方が長期的なメリットは大きいため、「リスクを正しく理解した上で、別の方法で備える」という発想が大切です。
3. 「防げる」時代になった帯状疱疹
ここで朗報です。帯状疱疹は今、ワクチンで予防できる病気になっています。
現在日本で使えるワクチンは大きく2種類です。各自治体では、高齢者を対象に予防接種(定期接種)が行われているので、ご存知の方もいらっしゃると思います。
生ワクチン(水痘ワクチンの応用)
弱毒化した生きたウイルスを使うタイプです。安価で接種は1回ですが、免疫を抑える治療を受けている方は接種できません(生ワクチンは免疫抑制中の方に禁忌とされています)。
不活化ワクチン(シングリックス®)
ウイルスの一部の成分のみを使ったタイプで、生きたウイルスを含みません。そのため、免疫抑制治療を受けている方でも接種が可能です。2回の接種が必要で、費用はやや高めですが、発症予防効果は90%以上と非常に高いことが報告されています。
IBD治療で免疫を抑える薬剤を使用中、あるいはこれから使用を検討している方には、この不活化ワクチンが安全な選択肢となります。
4. いつ接種するのがベスト?
理想を言えば、免疫を抑える治療を開始する「前」に接種しておくのがベストです。ワクチンによる免疫がしっかりつくまでに時間がかかるためです。
しかし、すでに治療を始めている方でも、ご安心ください。不活化ワクチンは生きたウイルスを含まないため、治療中であっても問題なく接種できます。タイミングについては主治医と相談しながら決めていくことになります。
50歳以上の方は、IBDの有無にかかわらず帯状疱疹そのもののリスクが上がる年代でもあるため、ご家族の予防医療という視点でも知っておいていただきたい情報です。
5. 当院での対応
当院では、IBD治療を開始・変更するタイミングで、必要なワクチン接種について一緒に確認させていただいています。
特にJAK阻害薬の導入を検討する際には、事前に帯状疱疹ワクチンについてもご案内し、ご希望に応じて接種のスケジュールを組んでいきます。「これから治療を始めるけれど、何に気をつければいいか分からない」という方も、どうぞお気軽にご相談ください。
6. まとめ
帯状疱疹は「高齢者だけの病気」ではなく、免疫を抑える治療を受けている方にとっても身近なリスクになりえます。しかし、不活化ワクチンの登場により、治療中でも「備えられる」病気になりました。
治療をしっかり続けながら、感染症のリスクにも先回りして対策しておく。それが、安心して長く治療を続けていただくための当院の考え方です。気になることがあれば、診察室でいつでもお話ししましょう。