2026年6月09日

こんにちは。仙台駅前でIBD(炎症性腸疾患)診療と内視鏡診療に力を入れている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。当院は、プライバシーに配慮した個室空間で、大学病院での経験を活かした専門的な治療をスムーズに受けていただけるクリニックを目指しています。
今日は、外来でよく聞かれるのに、なかなかまとまった情報がない「IBDと社会生活の付き合い方」についてお話しします。
1. 旅行や外出前にやっておきたい3つの準備
薬は「余裕を持って」持参する
旅行中に薬が切れるのは、最も避けたいトラブルです。出発前に必ず残量を確認し、旅行日数+2〜3日分の余裕を持って持参しましょう。高度な治療(アドバンスド・セラピー)の中でも点滴や皮下注射を使っている方は、次の投与日と旅行日程が重ならないか、事前に確認しましょう。
皮下注射を自分で打っている方が飛行機を使う場合、液体の注射薬は機内持ち込みが可能です。ただし、海外に行かれる場合は英文の診断書や薬の説明書を用意しておくと安心です。当院でも作成に対応していますが、投与日をずらせば余計な不安も無くなりますので、合わせてご相談ください。
「トイレ情報」を事前にチェック
IBD患者さんを対象にした調査では、半数を超える方が「外出時にトイレの場所を常にチェックしている」と回答しています。この不安に応えるために生まれたのが、「I know IBD(アイノウ・アイビーディー)プロジェクト」です。
このプロジェクトは、IBD患者さんの外出時のトイレの不安を解消し、社会全体でIBDへの理解を高めることを目的として2022年5月に始動しました。趣旨に賛同した全国の協力企業・協力店が、IBD患者さんに施設・店舗内のトイレを貸し出してくれる仕組みです。特設Webサイトでは、地図上から協力店を検索できる「トイレMAP」機能も提供されており、お出かけ前にルート上のトイレをあらかじめ確認しておくことができます。
当院もこのプロジェクトに加盟しています。 来院時はもちろん、受診のついでにプロジェクトについてご質問があればお気軽にどうぞ。
▶ 協力店トイレMAPはこちら
そのほか、「トイレ情報共有マップ」や、観光地・駅構内のトイレ案内を調べておくと、不安がぐっと減ります。新幹線など、トイレに近い号車・座席を選ぶだけでも精神的にずいぶん楽になります。
「排便日誌」や「体調メモ」を習慣にする
旅行中は食事や睡眠、活動量が変わり、再燃のリスクが上がりやすい時期です(食事に関する記事やストレスに関する記事もご参照ください)。体調の変化を記録しておくと、帰宅後の外来でも正確に状況を伝えられます。
2. 仕事や学校との付き合い方—「どこまで伝えるか」問題
開示は「義務」ではなく「戦略」
IBDであることを職場や学校に伝えるかどうかは、個人の判断であり、義務ではありません。ただし、「トイレに頻繁に行く」「急な体調不良で休むことがある」という状況は、何も言わずにいると誤解を招くことがあります。
全てを話す必要はありませんが、直属の上司や担当の先生に「消化器の持病があり、トイレが近くなることがある」「疲労が溜まると体調を崩しやすい」程度を伝えておくだけで、働きやすさや通いやすさが大きく変わることがあります。
「合理的配慮(ごうりてきはいりょ)」を知っておく
2024年4月から、すべての企業・学校に対して、障害や難病のある方への「合理的配慮の提供」が義務化されました。これは、「特別扱い」ではなく、「必要な調整をお願いする権利」です。
たとえばー
トイレに近い座席や机への変更
体調不良時の在宅勤務・時差出勤の許可
検査や通院のための早退・遅刻への柔軟な対応
こうした配慮を求めることは、正当な権利です。遠慮しすぎず、活用してください。
3. 知っておきたい制度—医療費助成など
ここで、患者さんからよく混同されるポイントを整理します。
指定難病の医療費助成制度—医療費の自己負担を減らす制度
潰瘍性大腸炎・クローン病はともに「指定難病(していなんびょう)」に認定されており、症状が一定以上の重症度の場合、または医療費が高額になる場合、医療費の自己負担が最大2割(さらに所得に応じた月額上限あり)に抑えられる制度があります。
申請は、お住まいの都道府県の保健所窓口(仙台市の場合は区役所障害高齢課)で行います。主治医(難病指定医)に「臨床調査個人票(りんしょうちょうさこじんひょう)」という診断書を作成してもらう必要があります。当院は難病指定医の在籍するクリニックですので、書類作成にも対応しています。
なお、よく「難病手帳」と呼ばれることがありますが、正式な名称は「特定医療費(指定難病)受給者証」です。障害者手帳などとは別の制度ですので、ご注意ください。
2024年4月から「登録者証」制度が始まりました
2024年4月より、指定難病の患者さんが就労・福祉などの支援をより受けやすくするための「指定難病登録者証(とうろくしゃしょう)」の発行事業が、都道府県・指定都市でスタートしています。この登録者証があることで、医師の診断書に代わり指定難病の患者であることが確認でき、ハローワークでの就労相談や各種支援窓口へのアクセスがスムーズになります。
就労支援——ハローワーク・難病相談支援センターを活用する
「体調が不安で転職を考えている」「働き方を変えたい」という方には、各都道府県に設置された「難病相談支援センター(なんびょうそうだんしえんせんたー)」への相談をお勧めします。就労に関する専門的な相談ができ、ハローワークと連携した支援も受けられます。仙台市の場合は「宮城県難病相談支援センター」が相談窓口です。
身体障害者手帳・障害年金は「重症な場合」に限られます
「IBDでも障害者手帳が取得できるの?」という質問もよくお受けします。結論から言うと、IBDそのものではなく、腸の手術後などで排便機能に重い障害が残った場合などに「直腸機能障害(ちょくちょうきのうしょうがい)」として対象になる可能性があります。軽症〜中等症の方は対象にならないケースがほとんどです。障害年金も同様で、日常生活に著しい支障がある重症例が対象です。
制度の詳細や申請の可否については、外来でご相談いただくか、難病相談支援センターにお問い合わせください。
4. まとめ
IBD患者さんでも、仕事・学校・旅行は続けられます。大切なのは「完璧に隠す」でも「すべてを我慢する」でもなく、使える制度と環境を上手に活用しながら、自分らしい社会生活を組み立てることです。
各制度の書類の作成や、「こんな場合はどうすれば?」という具体的なご相談など、外来でお気軽にお聞きください。
引用文献
1. I know IBDプロジェクト 協力店トイレMAP
2. 難病情報センター(医療費助成制度)
3. 仙台市 指定難病 登録者証
4. 宮城県難病相談支援センター
5. 厚生労働省 難病患者の就労支援
※制度の内容は変更になる場合があります。最新情報はお住まいの都道府県窓口または難病情報センターにてご確認ください。