2026年4月21日

こんにちは。仙台駅前でIBD(炎症性腸疾患)診療と内視鏡診療に力を入れている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。当院は、プライバシーに配慮した個室空間で、大学病院レベルの専門的な治療をスムーズに受けていただけるクリニックを目指しています。
IBDの高度な治療(アドバンスド・セラピー)を深掘りするシリーズも、ついに第6弾。今回は、最近登場した新しいメカニズムの飲み薬、S1P(エスワンピー)受容体調節薬を取り上げます。製品名では、オザニモド(ゼポジア®)やエトラシモド(ベルスピティ®)と呼ばれるお薬です。
過去の記事をまだご覧になっていない場合は、「潰瘍性大腸炎治療の全体像」や「クローン病治療の全体像」を読んでもらってから、各論である「高度な治療(アドバンスド・セラピー)」に進んでくださいね。
過去記事:潰瘍性大腸炎の治療を総括する:基本の5-ASA製剤から最新治療までのステップ
過去記事:クローン病の治療を総括する:早期の「徹底管理」が未来を分ける理由
1.「兵舎の門」をロックして、兵士を外に出さない
これまでのシリーズで、腸の炎症(火事)を防ぐために、さまざまな作戦をご紹介してきました。
過去記事:薬の仕組みを知ろう(①抗TNF抗体編)
過去記事:薬の仕組みを知ろう(②JAK阻害薬編)
過去記事:薬の仕組みを知ろう(⑤抗IL-23(p19)抗体編)
今回のS1P受容体調節薬の作戦は、例えるなら「兵舎(リンパ節)の門をロックする」ことです。
腸で炎症が起きると、血液中のリンパ球(炎症の応援部隊である兵士)が現場に駆けつけます。これらの兵士は、普段はリンパ節という「兵舎」に待機しています。S1P受容体調節薬は、この兵舎から出るための「鍵(受容体)」に作用して、兵士たちが外に出にくい状態にしてしまいます。
応援部隊が血液中に出てこれなければ、腸という現場にたどり着くこともできません。その結果、腸の炎症が鎮まっていくのです。
兵士を現場にたどり着かせないようにする点では、第3弾で解説した抗インテグリン抗体と似たところがありますね。
2. 同じ「飲み薬」のJAK阻害薬とは何が違う?
第2弾でご紹介したJAK阻害薬(ゼルヤンツ、ジセレカ、リンヴォック)も飲み薬ですが、仕組みが違います。
JAK阻害薬は、「細胞(リンパ球)の中に入り込んで、炎症のスイッチを直接オフにする」ようなイメージのお薬です。一方、今回のS1P受容体調節薬は、あくまで「細胞(リンパ球)の移動を制限する」というアプローチで効いてきます。
このS1P受容体調節薬を飲み始めると、血液中のリンパ球数が少なくなります(血液検査で分かります)。これは、「お薬が体に作用しているバロメーター」であり、「効きすぎていないか」という目線でもチェックする必要があります。
3. 始める前に「心電図」と「目のチェック」が必須な理由
新しいメカニズムのお薬ですので、これまでのお薬にはなかった独自の副作用プロファイル(お薬の特性)を持っています。そのため、専門医による事前のチェックが重要です。
心臓への影響(徐脈など)
使い始めに心拍数が一時的に下がることがあります。そのため、投与前に必ず心電図検査を行い、心臓の伝導障害(電気信号のトラブル)がないかを確認します。
目への影響(黄斑浮腫など)
網膜(目の奥)にむくみが生じる「黄斑浮腫(おうはんふしゅ)」という副作用が報告されています。まれな副作用ではありますが、糖尿病で治療中の方や、過去にぶどう膜炎を経験した方はリスクが高いので注意が必要です。
感染症への注意
リンパ球を兵舎に閉じ込めるため、血液中のリンパ球数が少なくなります。感染症にかかりやすくなるのでは?という心配があるかもしれませんが、長期に使用した報告では、心配するような増加はありませんでした。
4. どのような患者さんに向いている?
本邦の最新の治療指針でも、海外の最新のガイドラインでも、中等症から重症の潰瘍性大腸炎の方に有効な選択肢として加わっています。
注射や点滴を避けたい方
お仕事やプライベートの利便性を優先したい方
5-ASA製剤(基本薬)では不十分で、これから高度な治療(アドバンスド・セラピー)を始めようという方
まとめ
S1P受容体調節薬は、IBD治療における「飲み薬」の可能性を大きく広げたお薬です。しかし、心臓や目への配慮が必要なため、「ただ処方する」のではなく、「安全に使用できるかを見極める」専門医の目が欠かせません。
当院では、大学病院での経験を活かしながら、最新の知見に基づいた適切なスクリーニングとモニタリングを行っています。「自分にこの薬は合っているかな?」と興味を持たれた方は、ぜひお気軽にご相談ください。
引用文献
1. Sandborn WJ, Feagan BG, et al. Ozanimod as Induction and Maintenance Therapy for Ulcerative Colitis. N Engl J Med. 2021;385(14):1280-1291.
2. Sandborn WJ, Vermeire S, et al. Etrasimod as induction and maintenance therapy for ulcerative colitis (ELEVATE): two randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 studies. Lancet. 2023;401(10383):1159-1171.
3. 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和7年度改訂版
4. Singh S, Loftus EV Jr, et al. AGA Living Clinical Practice Guideline on Pharmacological Management of Moderate-to-Severe Ulcerative Colitis. Gastroenterology. 2024;167(7):1307-1343.