2026年7月21日

こんにちは。仙台駅前でIBD(炎症性腸疾患)診療と内視鏡診療に力を入れている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。当院は、プライバシーに配慮した個室空間で、大学病院での経験を活かした専門的な治療をスムーズに受けていただけるクリニックを目指しています。
前回は、IBDに伴う「腸管外合併症(EIM:Extraintestinal Manifestations)」のうち「関節症状」と「皮膚症状」についてお話ししました。今回はその続編として、特に見逃すと危険な「眼の症状」と、意外に多い「肝胆道系(肝臓・胆のう・胆管)の合併症」を解説します。
前回や過去の記事をまだご覧になっていない場合は、そちらもあわせてご覧くださいね。
前回記事:関節が痛い、皮膚に赤いしこりが…それ、腸の炎症が「飛び火」しているサインかもしれません
過去記事:潰瘍性大腸炎の治療を総括する:基本の5-ASA製剤から最新治療までのステップ
過去記事:クローン病の治療を総括する:早期の「徹底管理」が未来を分ける理由
1. 「腸と連動するか、しないか」が眼の症状でも鍵になる
前回もお話ししたように、IBDの腸管外合併症には「腸の炎症と連動して出るもの」と「腸の状態とは独立して動くもの」の2種類があります。眼の症状も、この2つに分けて考えることが重要です。
上強膜炎(じょうきょうまくえん)─腸と一緒に治まるタイプ
上強膜炎は、白目の表面を覆う薄い膜(上強膜:じょうきょうまく)に炎症が起きる状態です。
症状としては、白目の一部が局所的に充血して赤くなることが特徴で、痛みは比較的軽めです。かゆみや大量の目やには認めず、視力への影響もほとんどありません。
最大の特徴は、腸の炎症が活動期であるときに一緒に出やすく、腸の治療がうまくいくと自然に治まる傾向があることです。IBDそのものの治療(5-ASA製剤やアドバンスド・セラピー)を続けながら、必要に応じて点眼薬でケアする程度で対応できることが多いです。
「白目が赤い」と気になったら、眼科を受診しつつ、IBDの主治医にも相談するようにしてください。
ぶどう膜炎─見逃すと危険なタイプ
IBDに伴う眼合併症の中で最も注意が必要なのが、ぶどう膜炎です。
ぶどう膜とは、眼球の内側にある血管に富んだ組織(虹彩・毛様体・脈絡膜の総称)のことです。ここに炎症が起きると、以下のような症状が出ます。
眼の痛み・重い感じ
光がまぶしい(羞明:しゅうめい)
視界がぼやける・かすむ
頭痛
上強膜炎と異なり、ぶどう膜炎は腸の炎症とは必ずしも連動せず、腸が落ち着いている時期でも突然発症することがあります。また、IBDの診断よりも先にぶどう膜炎が出ることさえあります。
ぶどう膜炎は治療が遅れると、視力低下や最悪の場合は失明につながる可能性があります。「目がかすむ」「光が痛い」という症状が出たら、数日以内に眼科を受診し、IBDの主治医にも速やかに連絡してください。
治療は点眼ステロイドが基本ですが、重症例では全身的なステロイドや抗TNF抗体製剤(アドバンスド・セラピー)が有効とされています。
2. 肝胆道系の合併症:実は最も頻度が高いグループ
実は、IBDの腸管外合併症を臓器別にみると、肝臓・胆道系の合併症が最も頻度が高いグループです。健康診断などで「肝機能の数値(AST・ALT・γ-GTP)が少し高い」と言われ続けている方は、IBDとの関連を一度考えてみることが大切です。
原発性硬化性胆管炎(PSC:げんぱつせいこうかせいたんかんえん)
IBDに伴う肝胆道系合併症の中で最も重篤なのが、この原発性硬化性胆管炎(PSC)です。肝臓から腸へ胆汁(たんじゅう:消化液の一種)を運ぶ「胆管(たんかん)」が、慢性的な炎症によって少しずつ硬く狭くなっていく病気です。
特に潰瘍性大腸炎との合併が多く、潰瘍性大腸炎患者さんの約2〜7%に起こるとされています。逆に、PSCと診断された方の約60〜80%にIBDが合併していることが分かっており、両者は非常に深い関係にあります。
PSCはゆっくりと進行するため、初期は自覚症状がほとんどありません。血液検査で肝胆道系の酵素(ALP・γ-GTPなど)が上昇することで気づかれることが多いです。進行すると黄疸(おうだん:皮膚や白目が黄色くなること)や肝硬変(かんこうへん)につながる可能性があり、また胆管がんのリスクが高いことも知られています。
残念ながら現時点では根本的な薬物治療がなく、進行した場合は肝移植が必要になることもあります。IBDにPSCが合併している方は、大腸カメラによるサーベイランス(定期的な監視)を年1回受ける必要があることが、国内外のガイドラインで推奨されています。
過去記事:大腸カメラを定期的に受ける本当の理由:炎症を「ゼロ」にして将来のがんを防ぐ
脂肪肝・胆石など
PSCほど重篤ではありませんが、IBD患者さんには脂肪肝(しぼうかん)や胆石(たんせき)の頻度も高いことが知られています。栄養障害や炎症による代謝の変化、ステロイドの使用などが原因として考えられています。多くの場合、IBDの治療を続けて栄養状態を整えることで改善が期待できます。
3. まとめ
IBDの腸管外合併症は、関節・皮膚だけではありません。特に眼の症状(ぶどう膜炎)は緊急性があり、肝胆道系の異常(PSC)は長期的な経過に大きく影響します。
「眼の不調」「健診の肝機能異常」があれば、眼科などを受診するのはもちろんですが、必ずIBDの主治医にも情報を共有してください。専門家が連携することで、見逃しを防ぎ、最適な対応ができます。
当院では、これらの腸管外合併症の可能性も念頭に置きながら、定期的な血液検査などを組み合わせて診療を行っています。気になることがあれば、いつでも診察室でご相談ください。
引用文献
1. 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和7年度改訂版
2. Gordon H, Burisch J, et al. ECCO Guidelines on Extraintestinal Manifestations in Inflammatory Bowel Disease. J Crohns Colitis. 2024;18(1):1-37.
3. Rogler G, Singh A, et al. Extraintestinal Manifestations of Inflammatory Bowel Disease: Current Concepts, Treatment, and Implications for Disease Management. Gastroenterology. 2021;161(4):1118-1132.