2026年10月06日

こんにちは。仙台駅前で消化器内視鏡と炎症性腸疾患(IBD)の専門診療を行っている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。当院は、プライバシーに配慮した個室を多数ご用意し、リラックスして受診いただけるような環境を整えています。
「トイレで血が出た」という症状で受診される方が、当院でも多くいらっしゃいます。血便は、消化器内科の外来で最もよくある受診理由の一つです。突然のことで慌てて来られる方もいれば、「実は半年くらい前から、ときどき…」と、しばらく様子を見てから来られる方もいます。
当院は「内視鏡」と「IBD」を診療の2本柱にしていますが、血便はまさにこの2つが重なる症状です。原因が大腸ポリープや大腸がんなら「内視鏡専門医の目」で、潰瘍性大腸炎やクローン病なら「IBD専門医の目」で調べていく必要があります。そして、どちらの場合も、最終的な診断には大腸カメラ(大腸内視鏡検査)が大きな役割を果たします。
今回は、「血便が出たら、まず何を考え、いつ、どこを受診すればいいのか」を順番に整理していきます。
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過去記事:仙台は大腸がんが多い?「症状がない」今こそ、大腸カメラ検査を受けるべき3つの理由
1. 血便の「色」で、出血している場所のおおよその見当がつく
ひと口に「血便」といっても、見た目はさまざまです。血の色や便との混ざり方から、消化管(口から肛門までの食べ物の通り道)のどのあたりで出血しているのか、おおよその見当をつけることができます。
鮮やかな赤(鮮血:せんけつ)
肛門や直腸など、出口に近い場所からの出血が多いです。便の表面に付いている、紙に付く、ポタポタ垂れる、といった出方が典型的です。
暗い赤・赤黒い血が便に混ざっている
肛門から少し離れた、大腸の奥のほうからの出血が考えられます。
粘液と血が混ざっている(粘血便:ねんけつべん)
大腸の粘膜に炎症が起きているサインです。潰瘍性大腸炎や感染性腸炎(細菌やウイルスによる腸炎)でよくみられます。
真っ黒でベタッとした便(タール便)
胃や十二指腸など、消化管の上の方からの出血が疑われます。血液が胃酸などと反応して黒くなるためで、この場合は大腸カメラではなく胃カメラが優先です。
ただし、これはあくまで「目安」です。大腸の奥からの出血でも量が多ければ真っ赤に見えますし、直腸(肛門のすぐ近くの腸)にできたがんは、痔と同じような鮮やかな赤い血が出ます。「鮮血だから痔だろう」とは言い切れない、というのがいちばん大切なポイントです。
なお、鉄剤(貧血の薬)を飲んでいると便が黒くなることがあり、ビーツやトマトなど赤い食べ物で便が赤っぽく見えることもあります。思い当たるものがあれば、受診の際に教えてください。
2. 血便の主な原因─よくある病気を整理しましょう
血便の原因になる代表的な病気を、特徴とともにご紹介します。
痔(いぼ痔・切れ痔)
血便の原因として最も多いのが痔です。排便のときに鮮やかな赤い血が紙に付いたり、ポタポタ垂れたりするのが典型的です。切れ痔(裂肛:れっこう)は排便時の鋭い痛みを伴うことが多く、いぼ痔(内痔核:ないじかく)は痛みがないまま出血することもあります。便秘や長時間のいきみがきっかけになりやすいです。
大腸ポリープ・大腸がん
早期の大腸がんやポリープは、ほとんど症状がありません。出血しても少量で、毎回出るとは限らないため、気づかれにくいのが特徴です。直腸やS状結腸(直腸のすぐ奥の腸)のがんでは鮮やかな赤い血が出ることがあり、痔との区別がつきにくくなります。便が細くなった、残便感(便が出きらない感じ)がある、貧血や体重減少がある、といった症状にも注意が必要です。
「大腸がんは高齢者の病気」と思われがちですが、近年は50歳未満で発症する若年性大腸がんが世界的に増えています。米国の研究では、50歳未満の大腸がん患者さんで、診断前に最も強く関連していたサインが血便(血便がある人は約5倍、大腸がんと診断されやすい)でした(文献4)。若いから大丈夫、とは言い切れないのです。
潰瘍性大腸炎
大腸の粘膜に慢性的な炎症が起こる病気で、IBD(炎症性腸疾患)の代表です。粘液の混ざった血便(粘血便)、下痢、トイレの回数が増える、しぶり腹(便意があるのに少ししか出ない状態)などが特徴です。10代〜30代の若い方に多いものの、どの年代でも発症します。
特に、炎症が直腸だけにとどまるタイプ(直腸炎型)では、症状が「少量の出血」だけということも多く、「ずっと痔だと思っていた」という方が実は潰瘍性大腸炎だった、というケースは決して珍しくありません。
クローン病
同じIBDの仲間ですが、口から肛門まで消化管のどこにでも炎症が起こりうる病気です。血便は潰瘍性大腸炎ほど目立たず、腹痛、下痢、体重減少、そして痔瘻(じろう:肛門の周りに膿のトンネルができる状態)などの肛門の病変がきっかけで見つかることもあります。
虚血性腸炎
大腸の血の巡りが一時的に悪くなり、粘膜が傷んでしまう病気です。「左のお腹が突然かつ強く痛くなり、その後に下痢をして、徐々に血が混ざってきた」という経過が典型的です。便秘気味の方、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病がある方、中高年の女性に多い傾向があります。多くは数日〜1週間ほどで自然に良くなりますが、まれに重症化することもあります。
大腸憩室出血(だいちょうけいしつしゅっけつ)
憩室(けいしつ)とは、大腸の壁の一部が外側に袋のように飛び出したものです。憩室そのものは珍しくなく、大腸カメラを受けると高い頻度で見つかります。この憩室の血管から出血するのが憩室出血で、腹痛がほとんどないのに、突然まとまった量の血が出るのが特徴です。高齢の方、血液をサラサラにする薬(抗血栓薬)や痛み止め(NSAIDs)を飲んでいる方に多く、日本では増加傾向にあります。自然に止まることも多い一方で、再出血しやすいことが知られています。
感染性腸炎
細菌やウイルスによる腸炎です。発熱・腹痛・下痢を伴い、生焼けの鶏肉などが原因になるカンピロバクター腸炎や、腸管出血性大腸菌(O157など)では血便が出ることがあります。抗菌薬(抗生物質)を飲んだ後に起こる腸炎もあります。多くは自然に治りますが、症状が長引く場合は潰瘍性大腸炎などとの区別が必要になります。
3. こんな血便はすぐに受診を─救急受診も考えるべきサイン
次のような場合は、様子を見ずに当日中に医療機関を受診してください。夜間・休日であれば、救急外来の受診をためらわないでください。
・便器が真っ赤になるほどの出血がある、または何度も続いている
・ふらつき・立ちくらみ・冷や汗・動悸・気が遠くなる感じがある
・強い腹痛が続いている、または高い熱がある
・真っ黒なタール便が出た
・血液をサラサラにする薬(抗血栓薬)を飲んでいる
米国消化器病学会(ACG)のガイドラインでも、急な下部消化管出血(大腸や肛門からの出血)では、まず血圧や脈拍、貧血の程度など全身の状態を評価することが最優先とされています(文献1)。出血の多くは自然に止まりますが、輸血や入院、緊急の止血処置が必要になることもあります。当院のようなクリニックでは入院治療ができないため、上に挙げたような症状があるときは迷わず救急病院へ、というのが安全な考え方です。
また、血液をサラサラにする薬は、心臓や脳の病気を防ぐ大切な薬です。出血が気になっても自己判断で中止せず、必ず医師に相談してください。
4. 「少量の血便」こそ、受診のタイミングを逃さないで
実際に外来で多いのは、「紙に少し付いた」「便の表面にうっすら血が付いていた」という、少量の血便です。急を要することは少ないのですが、だからこそ「様子を見ているうちに数か月たっていた」ということになりがちです。次のような場合は、一度消化器内科を受診することをおすすめします。
・血便を繰り返している、または2週間以上続いている
・40歳以上で、これまで大腸カメラ検査を受けたことがない
・下痢・腹痛・粘液の混じった便など、ほかの症状もある
・便が細くなった、残便感がある、体重が減った、貧血を指摘された
・家族に大腸がんやIBDの方がいる
ここで知っておいていただきたいのは、「痔がある=出血の原因は痔」とは限らないということです。痔はとてもありふれた病気なので、痔と大腸ポリープ・大腸がんが同時にあることは十分ありえます。痔からの出血だと思い込んでいるうちに、奥にある病気の発見が遅れてしまうーこれが、私たち内視鏡医がいちばん避けたいパターンです。
受診された際には、まずいつから・どんな血が・どのくらい出ているのか、ほかにどんな症状があるのかを詳しくお聞きします。そのうえで、必要に応じて血液検査(貧血や炎症の有無)や便の検査などを行い、原因のおおよその見当をつけます。
5. 大腸カメラ検査を受けるタイミング─原因別の考え方
血便の原因をはっきりさせるうえで、最も確実な検査が大腸カメラ検査です。大腸の粘膜を直接見ることができ、気になる部分があればその場で組織を少し採って調べたり(生検:せいけん)、ポリープであればその場で切除したりすることもできます。
とはいえ、「血便が出たら全員すぐに大腸カメラ検査」というわけではありません。原因として考えられる病気や年齢、これまでの検査歴によって、必要性とタイミングは変わります。
■ 痔が疑われる場合
仮に肛門の診察で痔が見つかったとしても、40歳以上の方、これまで大腸カメラを受けたことがない方、血便を繰り返している方には、一度は大腸の中も確認しておくことをおすすめしています。「痔のせいだった」と確認できれば、それはそれで大きな安心につながります。
潰瘍性大腸炎・クローン病が疑われる場合
IBDの診断には、大腸カメラで粘膜の状態を確認し、生検で組織を調べることが欠かせません。IBDは早く診断して適切な治療を始めるほど、その後の経過が良くなることが分かっています。粘血便や下痢が続いている場合は、早めの検査をおすすめします。
過去記事:日本のIBD患者数は40万人を突破。World IBD Dayに寄せて、日本の現状や病気の基本を整理する
虚血性腸炎の場合
虚血性腸炎は、多くの場合、腸を休ませる(食事の調整や安静)ことで自然に良くなります。当院では、症状が落ち着いた後に、改めて大腸全体を大腸カメラ検査で確認することをおすすめしています。
その理由は2つあります。1つは、虚血性腸炎になりやすい年代が、大腸ポリープや大腸がんが増える年代とちょうど重なることです。もう1つは、大腸がんなどで腸が狭くなっている部分の手前に、虚血性腸炎が起こることがあるためです。「虚血性腸炎だと思っていたら、実は奥にがんがあった」ということを避けるためにも、そして「これまで一度も大腸カメラ検査を受けたことがなかった」という方にとっては大腸がん検診の良い機会として、発症をきっかけに一度しっかり確認しておくと安心です。
大腸憩室出血の場合
まとまった量の出血がある時期は、入院設備のある病院での対応が必要です。出血が落ち着いた後、出血源の確認や、ほかの病気が隠れていないかを確かめる目的で大腸カメラ検査を行うことがあります。
感染性腸炎の場合
多くは数日〜1週間ほどで自然に治るため、急性期に大腸カメラ検査が必須というわけではありません。ただし、症状が2週間以上長引く場合や、良くなったり悪くなったりを繰り返す場合は、潰瘍性大腸炎などと区別するために大腸カメラ検査を検討します。どのケースでも、「必ず今すぐ検査を」と一方的にお勧めすることはありません。症状や年齢、ご希望をうかがいながら、検査が必要かどうか、必要ならいつがよいかを一緒に考えていきます。
6. 当院での取り組み
当院では、血便で受診された方に対して、問診・診察・血液検査などで原因の見当をつけ、大腸カメラ検査が必要な場合には検査の日程をご相談しています。
血便の原因を調べる大腸カメラ検査では、ポリープやがんを見逃さない「内視鏡専門医の目」と、潰瘍性大腸炎やクローン病のわずかな炎症を見逃さない「IBD専門医の目」の両方が大切です。当院では、この2つの視点をもって検査を行い、必要に応じて生検などを行います。また、検査中に見つかったポリープは、条件が合えばその場で日帰り切除が可能です。
「大腸カメラ検査は痛そうで怖い」という方には、鎮静剤(眠り薬)を使った苦痛の少ない検査や、お腹の張りが残りにくい炭酸ガスの使用など、少しでも楽に受けていただける工夫をしています。プライバシーに配慮した個室もご用意しています。
なお、大量出血などで入院や緊急の止血処置が必要と判断した場合は、速やかに連携する病院へご紹介します。
過去記事:大腸カメラ検査はなぜ痛い?「体質のせい」にされないための本当の知識
過去記事:大腸カメラ検査は「治療」でもある:ポリープを切除する本当の意味
7. まとめ
血便は、痔のようなありふれた原因から、大腸がんや潰瘍性大腸炎のように早く見つけることが大切な病気まで、さまざまな原因で起こります。
次の3点を覚えておいてください。
①血の色や出方で出血場所の見当はつくが、「鮮血だから痔」とは言い切れない
②大量の出血、ふらつき、強い腹痛などがあるときは、迷わず救急受診を
③少量でも繰り返す血便や、40歳以上で大腸カメラ検査を受けたことがない方の血便は、一度大腸の中を確認しておくと安心
「血が出たけれど、受診するほどか分からない」「痔だと思って様子を見ているけれど、ずっと気になっている」という方も、どうぞお気軽にご相談ください。原因がはっきりすることで、大きな安心につながります。
引用文献
1. Fritz CDL, Otegbeye EE, et al. Red-flag signs and symptoms for earlier diagnosis of early-onset colorectal cancer. J Natl Cancer Inst. 2023;115(8):909-916.
2. Brandt LJ, Feuerstadt P, et al. ACG Clinical Guideline: Epidemiology, Risk Factors, Patterns of Presentation, Diagnosis, and Management of Colon Ischemia (CI). Am J Gastroenterol. 2015;110(1):18-44.
3. Nagata N, Ishii N, et al. Guidelines for Colonic Diverticular Bleeding and Colonic Diverticulitis: Japan Gastroenterological Association. Digestion. 2019;99 Suppl 1:1-26.
4. Sengupta N, Feuerstein JD, et al. Management of Patients With Acute Lower Gastrointestinal Bleeding: An Updated ACG Guideline. Am J Gastroenterol. 2023;118(2):208-231.