2026年7月14日

こんにちは。仙台駅前でIBD(炎症性腸疾患)診療と内視鏡診療に力を入れている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。当院は、プライバシーに配慮した個室空間で、大学病院での経験を活かした専門的な治療をスムーズに受けていただけるクリニックを目指しています。
「潰瘍性大腸炎・クローン病って、腸の病気ですよね?なのになぜ関節が痛くなるんですか?」
診察室でよくいただくご質問です。IBDは「腸だけの病気」と思われがちですが、実は免疫の異常が全身に影響を及ぼす「全身性の炎症疾患」でもあります。
今回は、IBDに伴う「腸管外合併症(EIM:Extraintestinal Manifestations)」の中でも、特に患者さんご自身が気づきやすい関節症状と皮膚症状に絞って解説します。眼の症状や肝胆道系(肝臓・胆のう)の合併症については、また改めてお話しする予定です。
過去の記事をまだご覧になっていない場合は、「潰瘍性大腸炎治療の全体像」や「クローン病治療の全体像」もあわせてご覧くださいね。
過去記事:潰瘍性大腸炎の治療を総括する:基本の5-ASA製剤から最新治療までのステップ
過去記事:クローン病の治療を総括する:早期の「徹底管理」が未来を分ける理由
1. 「腸の外」にも炎症が飛び火するのはなぜ?
IBDでは腸の粘膜で免疫細胞(兵士たち)が暴走して炎症(火事)を起こすことは、これまでのシリーズでお話ししてきました。この暴走した免疫細胞は血流に乗って腸以外の場所にも移動し、関節・皮膚・眼・肝臓などで炎症を引き起こすことがあります。これが腸管外合併症です。
欧州のガイドライン(ECCO、2024年)では、IBD患者さんの半数が生涯に少なくとも1つの腸管外合併症を経験するとされています。決して珍しい話ではないのです。
そしてこの腸管外合併症には、大きく2つのパターンがあります。
「腸の炎症と連動する」タイプ
腸の具合が悪いとき(活動期)に一緒に出てきて、腸の治療がうまくいくと一緒に改善する
「腸の炎症とは独立して動く」タイプ
腸が落ち着いている時期でも出てくる、または悪化する
この違いが、治療方法にも大きく影響します。
2. 最も多い合併症:関節の症状
腸管外合併症の中で最も頻度が高いのが関節症状です。IBD患者さんの関節症状は、大きく「末梢関節炎(まっしょうかんせつえん)」と「脊椎関節炎(せきついかんせつえん)」の2つに分けられます。
末梢関節炎(四肢の関節の炎症)
膝・足首・肘・手首などの手足の関節に炎症が出るタイプです。腸の炎症と連動することが多く、「腸の調子が悪くなると、同時に膝が腫れてくる」というパターンが典型的です。
特徴的なのは、左右非対称に、飛び飛びの関節に出ることです。「先週は右膝、今週は左足首」といった訴えをよく伺います。一般的な関節リウマチとは異なり、軟骨や骨が壊れていく「びらん(骨破壊)」を起こしにくいことも重要な点です。
腸の炎症をしっかり抑えることが、この末梢関節炎の最善の治療になります。アドバンスド・セラピー(高度な治療)の中では、特に抗TNF抗体製剤が関節症状にも有効であることが知られています。
脊椎関節炎(背骨・骨盤の炎症)
背骨や骨盤のつけ根にある仙腸関節(せんちょうかんせつ)に炎症が出るタイプで、強直性脊椎炎(きょうちょくせいせきついえん)などが代表的です。
こちらは腸の炎症とは独立して進行することが多く、「腸の調子は安定しているのに、朝起きると腰が1時間以上こわばって動きにくい」という訴えが特徴的です。放置すると骨の変形につながることもあるため、整形外科や膠原病内科(こうげんびょうないか)との連携が必要になります。
ここで一つ大切なポイントをお伝えします。関節リウマチの治療薬として知られる「エタネルセプト」は、IBDの腸の炎症を逆に悪化させることがあるため、IBD患者さんには使用できません。整形外科で「この薬を使いましょう」と言われた際は、必ず消化器内科の主治医にもご相談ください。
3. 見逃されやすい合併症:皮膚の症状
IBDに伴う皮膚症状は、患者さん自身が「まさか腸と関係があるとは思わなかった」と気づきにくいことが多く、皮膚科を受診してもなかなか診断がつかないケースがあります。代表的なものを2つご紹介しますが、他にもさまざまな皮膚症状があります。
結節性紅斑(けっせつせいこうはん)
下肢の伸側(すね)に、触ると痛みがある赤〜紫色の皮膚の下のしこり(直径1〜5cm程度)が出てくるものです。熱感があり、女性に多い傾向があります。厚労省の治療指針でも代表的な腸管外皮膚合併症として記載されています。
腸の活動期(炎症が強い時期)に合わせて出やすく、腸の治療がうまくいくと一緒に改善することが多いです。「足が重だるくて赤いぼこぼこができた」と皮膚科を受診しても原因が分からなかった方が、IBDの診断・治療を開始したら消えていった、というケースもあります。
壊疽性膿皮症(えそせいのうひしょう)
名前は聞きなれないかもしれませんが、IBD患者さんにとっては知っておいていただきたい合併症です。最初は小さな赤いできものや水ぶくれとして始まりますが、短期間で急速に拡大して深く皮膚がえぐれた潰瘍(ただれ)になります。下肢に出やすく、強い痛みを伴います。
頻度は比較的少ないものの、腸の炎症の程度とは必ずしも連動せず、腸が落ち着いているときでも出ることがあります。治療には全身的なステロイドや抗TNF抗体製剤などアドバンスド・セラピーが必要になることが多く、皮膚科との連携が欠かせません。
4. 「腸の治療」が関節・皮膚も救う
ここまで読んでいただいてお気づきの通り、末梢関節炎と結節性紅斑のような「腸と連動するタイプ」の合併症は、腸の炎症をしっかり抑えること自体が最大の治療になります。
逆に言えば、これらの症状が新たに出てきたときは「腸の炎症がくすぶっているサイン」である可能性があります。過去記事でお話ししたTreat to Target(目標達成に向けた治療戦略)の観点でも、腸管外合併症は「治療が十分かどうか」を知らせてくれる大切なシグナルです。
過去記事:大腸カメラを定期的に受ける本当の理由:炎症を「ゼロ」にして将来のがんを防ぐ
「腸とは別の病気では?」と放置するのではなく、気になる関節症状・皮膚症状があれば、ぜひ主治医にご相談ください。当院では、必要に応じて整形外科・皮膚科とも連携しながら、腸以外の症状も安定するよう努めています。
5. まとめ
IBDは「腸だけの病気」ではありません。関節・皮膚などへの「飛び火(腸管外合併症)」は、IBD患者さんの多くが経験しうる、身近な問題です。
「お腹の症状とは別に、なんとなく体のあちこちが気になる」という方。腸の治療をしっかり続けることが、全身の炎症を鎮める近道になりえます。気になることがあれば、いつでも診察室でお話しください。
引用文献
1. 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和7年度改訂版
2. Gordon H, Burisch J, et al. ECCO Guidelines on Extraintestinal Manifestations in Inflammatory Bowel Disease. J Crohns Colitis. 2024;18(1):1-37.
3. Rogler G, Singh A, et al. Extraintestinal Manifestations of Inflammatory Bowel Disease: Current Concepts, Treatment, and Implications for Disease Management. Gastroenterology. 2021;161(4):1118-1132.