2026年8月25日

こんにちは。仙台駅前で消化器内視鏡と炎症性腸疾患(IBD)の専門診療を行っている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。当院は、プライバシーに配慮した個室を多数ご用意し、リラックスして受診いただけるような環境を整えています。
さて、9月1日は「大腸がん検診の日」です。大腸がんは、早期に発見・治療すれば治癒が期待できるにもかかわらず、日本では依然として死亡数の多いがんの一つです。「検診を受けること」と並んで大切なのが、ポリープを切除した後に「正しく経過をみること」です。
以前の記事で「なぜポリープを切除するのか」という意義についてお話ししました。今回はその続編として、「ポリープにはどんな種類があるのか」「種類によってリスクや次の検査間隔がどう変わるのか」を整理します。大腸がん検診の日を機に、ご自身のポリープの種類と今後の予定を、ぜひ一度確認してみてください。
過去記事:大腸カメラ検査は「治療」でもある:ポリープを切除する本当の意味
過去記事:お酒・肉・運動不足…大腸がんのリスクを上げる習慣・下げる習慣を専門医が正直に解説します
過去記事:便潜血で再検査?「たぶん痔だろう」が一番危ない理由を専門医がお伝えします
1. 大腸ポリープは「どれも同じ」ではない
大腸カメラで見つかるポリープには、大きく分けていくつかの種類があります。それぞれ、がんになる仕組みも、リスクの大きさも異なります。患者さんに病理結果をお伝えする際に「腺腫でした」「鋸歯状病変でした」とお伝えしても、なかなかピンとこないかもしれません。それぞれの意味を順番に説明していきます。
2. 最も多い「腺腫(せんしゅ)」─大腸がんの前段階
大腸カメラで切除されるポリープの中で最も多いのが腺腫です。腺腫は、大腸がんの前段階(前がん病変:ぜんがんびょうへん)であり、放置するとゆっくりと時間をかけてがんに変化していく可能性があります。この「腺腫→がん」という変化の流れを、専門的にはアデノーマ・カルシノーマ・シークエンスと呼びます。
ただし、すべての腺腫が必ずがんになるわけではありませんし、なったとしても10年以上かけてゆっくり進むことが多いです。大切なのは「リスクの高い腺腫かどうか」を見極めることです。以下のような特徴を持つ腺腫は「ハイリスク腺腫(アドバンスド・アデノーマ)」と呼ばれ、より注意が必要です。
大きさが10mm以上
病理で絨毛成分(じゅうもうせいぶん)を含む(管状絨毛腺腫・絨毛腺腫)
高度異形成(こうどいけいせい)がある(細胞の乱れが強い)
腺腫の個数が多い(3個以上)
このいずれかに当てはまる場合は、次の検査までの間隔を短めに設定することが推奨されています。
逆に言えば、小さくて数が少ない腺腫(低リスク腺腫)であれば、比較的ゆとりを持った間隔で検査を受けていただくことが可能です。日本消化器内視鏡学会のガイドラインでも、リスクに応じた「層別化(そうべつか)」、つまり患者さんをグループ分けして適切な間隔を設定する考え方が示されています。
3. 近年注目の「鋸歯状病変(きょしじょうびょうへん)」─見つけにくく、進行が速いことがある
「鋸歯状病変」という言葉を聞いて、戸惑った方もいらっしゃるかもしれません。これは比較的新しく注目されるようになったポリープの分類で、表面がノコギリの歯(鋸歯:きょし)のようなギザギザ状に見えることから名付けられています。
鋸歯状病変には主に以下の種類があります。
過形成性ポリープ(かけいせいポリープ:Hyperplastic Polyp / HP)
鋸歯状病変の中で最も多いタイプです。特に直腸や左側の大腸に多く、小さくて数が少ない場合は、基本的にはがんになるリスクが低いと考えられています。「過形成」とは細胞が増えすぎた状態を指しますが、構造の乱れが少ないため悪性化するリスクは低く、「放置しても構わない」と説明されることも多くあります。
SSL(Sessile Serrated Lesion:セッシル鋸歯状病変)
以前は「SSA/P(Sessile Serrated Adenoma/Polyp)」とも呼ばれていたタイプです。主に右側の大腸(上行結腸・盲腸)に多く、平坦で見つけにくいという特徴があります。
SSLは腺腫とは異なるルート(鋸歯状経路:きょしじょうけいろ)でがんになっていくことが分かっており、進行のスピードが腺腫よりも速い場合があると言われています。また、BRAF遺伝子変異やMSI(マイクロサテライト不安定性)という特徴的な分子異常を持つことが多く、これが近年の大腸がん研究において注目されている理由です。
そのため、SSLが見つかった場合は腺腫とは少し異なる経過観察が推奨されます。特に、異形成(いけいせい:細胞の乱れ)を伴うSSLD(SSL with dysplasia)や、10mm以上の大きなSSLは、より注意が必要です。
TSA(Traditional Serrated Adenoma:伝統的鋸歯状腺腫)
鋸歯状病変の中では比較的まれなタイプで、表面が赤みがかっていて、明瞭な凸型を示すことが多いです。がんになるリスクは腺腫やSSLより高いとされており、切除した後もしっかりとした経過観察が必要です。
4. 「次の検査はいつ?」─リスク別の考え方
ポリープ切除後のサーベイランス(定期的な検査)の間隔は、切除したポリープの種類・大きさ・個数・場所・病理結果によって個別に判断されます。日本消化器内視鏡学会のガイドラインおよび米国のガイドラインでも、一律に「全員1年後」ではなく、リスクに応じた間隔の設定が推奨されています。
大まかなイメージとして、リスクが低い場合(小さな低リスク腺腫が1〜2個など)は比較的ゆとりある間隔が設定されることが多く、ハイリスク腺腫やSSLなど注意が必要な場合はより短い間隔が勧められます。
ここで大切なのは、「間隔が短い=怖い病気」ではないということです。逆に、リスクをきちんと評価したうえで「今は少し早めにチェックしましょう」という判断は、将来のがんを防ぐための積極的な予防医療です。早めに確認することで、万が一の変化を早期に捉えることができます。
一方で、「低リスクなのに毎年受けているけれど本当に必要?」という疑問も、ガイドライン的には見直しが進んでいる部分です。必要以上に頻繁な検査は患者さんの負担になるだけでなく、検査そのものに伴うごくわずかなリスクもゼロではありません。適切な間隔での「賢いサーベイランス」が、患者さんにとっての最善です。
最終的な判断は、切除した病変の病理結果と、患者さんの全体的な状況を踏まえて、主治医と相談して決めるものです。「前回なんと言われたか忘れた」「結果を詳しく教えてもらえなかった」という方は、ぜひ次の受診時に確認してみてください。
5. 当院での取り組み
当院では、大腸カメラ検査で切除したポリープの病理結果が出た後、結果の丁寧な説明と、次回検査の適切なタイミングのご提案を行っています。
「腺腫を切除した」「鋸歯状病変と言われた」「何個かポリープがあった」など、以前の検査結果について不安や疑問がある方も、お気軽にご相談ください。他院での検査結果をお持ちいただいても、一緒に確認します。
また、大腸カメラ検査が「辛い思い出」になっている方には、鎮静剤(眠り薬)を使った苦痛の少ない検査もご用意していますので、遠慮なくご相談ください。
過去記事:大腸カメラ検査はなぜ痛い?「体質のせい」にされないための本当の知識
6. まとめ
大腸ポリープは「どれも同じ」ではありません。腺腫や鋸歯状病変など、それぞれのリスクの違いを知ったうえで、自分のポリープの種類と次の検査のタイミングをしっかりと確認することが、将来の大腸がんを防ぐための最善の一手です。「切除したから終わり」ではなく、「切除した後もしっかり見守る」ことが大切です。
引用文献
1. 日本消化器内視鏡学会 大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン Gastroenterological Endoscopy. 2020;62(8):1519-1560.