炎症性腸疾患(IBD)では長期にわたる治療を必要としますが、そのためには最初の適切な診断が非常に重要です。当院では、一人ひとりの症状を丁寧に問診し、最新の内視鏡設備を用いた精度の高い検査により、IBDの早期診断に力を入れています。
IBDの診断(確定診断の要素)
IBDの診断(確定診断の要素)

炎症性腸疾患(IBD)では長期にわたる治療を必要としますが、そのためには最初の適切な診断が非常に重要です。当院では、一人ひとりの症状を丁寧に問診し、最新の内視鏡設備を用いた精度の高い検査により、IBDの早期診断に力を入れています。
血便や下痢が長く続く、あるいは繰り返すといった症状は、潰瘍性大腸炎のサインかもしれません(詳しい症状については、こちらをご参照ください)。このような症状が見られる場合、まずは以下のステップで診断を進めていきます。
詳細な問診
症状の経過、過去の病歴(放射線治療の有無など)、服用している薬、海外渡航歴などにつき、詳しくお伺いします。
血液・便検査
炎症や貧血の有無、細菌や寄生虫感染の有無などを確認します。
大腸カメラ検査
大腸粘膜の状態を直接観察でき、炎症や潰瘍の有無を確認します。必要に応じて組織の一部を採取し(これを生検と言います)、顕微鏡を用いて診断します。場合によってはレントゲン検査も併用し、腸管の特徴的な変化を評価します。
鑑別診断
典型的な血便ではない場合でも、潰瘍性大腸炎が疑われることがあります。感染性腸炎や他の消化器の病気と区別するため、胃や小腸の検査を追加することもあります。
これらの検査を総合的に判断し、通常は2週間ほどで診断に至ります。診断が難しい場合は、分類不能型の炎症性腸疾患(IBD-U)として経過を観察することもあります。
クローン病は潰瘍性大腸炎よりも少し若い方に見られる病気で、腹痛や下痢が長く続くほか、発熱・体重減少・痔ろうや肛門周囲膿瘍などの肛門病変が主な症状として現れることがあります。
丁寧な問診
症状の経過に加え、過去の病歴(特に痔の手術歴)、服用している薬、海外渡航歴などにつき、詳しくお伺いします。
身体診察・血液検査
お腹だけでなく肛門の状態を診察し、血液検査では炎症や貧血の有無を確認します。
消化管検査
診断の中心となるのが消化管の精密検査です。大腸カメラ検査に加え(できるだけ小腸の観察も行ないます)、胃カメラ検査も行ないます。小腸の内視鏡検査を行なうこともあります。カメラ検査で組織を採取したのち、顕微鏡を用いた検査も重要です。
画像診断
必要に応じてCTやMRI検査を行ない、腸管の炎症だけでなく、狭窄や瘻孔の有無を評価します。
鑑別診断
クローン病に類似した症状を示す潰瘍性大腸炎のほか、感染症(腸結核など)、薬剤性腸炎、ベーチェット病などの鑑別を慎重に行ないます。
クローン病の診断は潰瘍性大腸炎よりも時間を要することが多く、通常は2週間から1ヶ月ほどで診断に至ります。診断が難しい場合は、分類不能型の炎症性腸疾患(IBD-U)として経過を観察することもあります。
IBDの診断において、病気が「活動期」なのか「寛解期」にあるのか、そして病変の「広がり」がどこまでかを正確に把握することは、治療方針を考えたり予後を判定するために重要な要素となります。
血便や下痢などの症状があり、カメラ検査で粘膜に炎症や潰瘍が見られる状態です。
血便や下痢などの症状が落ち着き、カメラ検査でも炎症が改善している状態です。
IBDは、症状が良くなったり(寛解)悪くなったり(再燃)を繰り返すことがいちばんの特徴と言えます。
潰瘍性大腸炎では、大腸のどの部位に炎症や潰瘍があるかによって、以下のタイプに分類されます。病変の範囲は、症状や治療法に関わるだけでなく、将来の経過にも関わるとされ、診断の際に大切な要素となります。
炎症が直腸(肛門に近い部分)に限られます。主な症状は血便や排便時の出血となります。比較的軽症ですが、肛門近くの炎症は便回数の増加につながりやすく、生活の質(QOL)に大きく影響します。
直腸からS状結腸、下行結腸まで炎症が広がっているタイプです。腹痛、下痢、血便の頻度が増え、症状も強くなる傾向があります。
大腸全体に炎症が及ぶタイプです。下痢や血便の程度は強いことが多く、発熱や体重減少を伴うこともあります。長期の経過の中では、最も手術に至りやすいとされています。
大腸の右側(盲腸や上行結腸など)を中心に炎症が見られるタイプで、あまり多くはありません。一見すると炎症は連続的ではないのですが、顕微鏡レベルでは炎症を認めたりします。クローン病や腸結核などと鑑別する必要があります。
クローン病は、病変の存在する部位や炎症の進行具合によって、以下のようなタイプに分類されます。
病変の存在する部位に応じて、小腸型・大腸型・小腸大腸型に分けられます。長い経過の中で、診断時から変化することもあります。
炎症型(炎症のみ)、狭窄型(腸が狭くなる)、穿通型(腸と他の腸・臓器との間が瘻孔で繋がる)に分けられます。診断時は炎症型が圧倒的に多いものの、経過とともに狭窄型や穿通型が増えていきます。
肛門周囲に炎症を伴うケースは特に日本人では多く、その有無は治療を考える上で重要です。
IBDの重症度は、治療方針を決定する上で非常に重要です。当院では、診察前にWebの問診に答えていただきますが、これらの重症度を反映した質問表になっています。治療効果をみる上で参考にしておりますので、診察前にぜひご回答ください。
排便回数、血便の程度、発熱や貧血の有無など、総合的に評価します。厚生労働省の重症度分類となります。
1日4回以下の排便回数で、血便の程度も軽く、発熱や貧血はありません。
重症と軽症の中間に位置します。
1日6回以上の血便に加え、発熱(37.5℃以上)、頻脈(90/分以上)、強い貧血(ヘモグロビン10g/dL以下)など、全身症状が見られる状態です。
国際的には「Mayoスコア」を用いることが多く、以下の症状のほか、内視鏡による粘膜所見を用いて、寛解・軽症・中等症・重症と判断します。
クローン病では「CDAI(Crohn’s Disease Activity Index)」という指標を用いて評価します。排便回数、体重減少、腹痛の程度、炎症マーカー(CRP値)などを総合し、少し複雑な式で全体を点数化します。
150点から220点までで、比較的軽い症状です
220点から450点に相当し、症状が明らかで、何らかの治療を必要とします
450点以上に該当し、腸閉塞や膿瘍などの合併症を伴うことも多く、入院を含めて強力な治療を必要とします
潰瘍性大腸炎もクローン病も進行性の病気であり、長期にわたる経過の中で「腸管ダメージが蓄積する」と言われています。例えば、関節リウマチで関節の破壊が進行すると、元には戻りません。IBDもそれと同じで、狭窄・瘻孔や手術などの腸管ダメージが進行すると、元には戻りません。
早期に診断し、早期に適切な治療を開始することで、腸管ダメージの進行を防ぎ、長期的に合併症が無い状態を維持できます。
「下痢や血便が長引いている」「市販薬で改善しない」などの症状がある場合は、できるだけ早めに消化器内科を受診することが大切です。気になる症状がある方は、IBD専門医が診断・治療を行なう当院まで、お気軽にご相談ください。
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