過敏性腸症候群
過敏性腸症候群

IBSの主な症状は、腹痛や腹部の不快感、そして便秘や下痢といった便通異常で、これらの症状はストレスによって悪化しやすい傾向があります。腹痛の部位は、へその周囲や左側腹部など人によって異なり、急に起こる強い痛みから持続的な鈍痛まで様々です。多くの場合、便意を伴い、排便後に一時的に痛みが軽快するという特徴があります。
排便回数や便の形状から、IBSは主に以下の3つのタイプに分けられ、それぞれ症状が異なります。
主な症状は、繰り返す便秘と、それに伴う膨満感や不快感です。腸管の運動が過剰になり、大腸の多くの部分が同時に収縮することで便秘になると考えられています。排便時に腹痛を伴い、多くは排便後に痛みやお腹の張りが軽減します。強くいきまないと便が出なかったり、ウサギの糞のようなコロコロとした小さな便しか出なかったりするなど、排便が困難になるのが特徴です。
一般的な便秘が高齢者に多いのに対し、IBSの便秘型は比較的若い年代の方に多くみられます。ストレスを感じると便秘が悪化しやすい傾向があります。
主な症状は、突然起こる腹痛と下痢です。お腹の張りや残便感などの不快な違和感を伴うこともあります。急な便意への不安が大きく、通勤・通学や外出が困難になる方もいらっしゃいます。緊張するとお腹が痛くなったり、下痢になったりすることが特徴です。このような不安は、さらに症状を悪化させてしまうことがあります。
一般的には、起床時から昼過ぎにかけて症状が強く現れ、それ以降は比較的安定することが多くあります。また、IBSは頭痛、頭重感、めまい、抑うつ、不安感、疲労感、肩こり、不眠、食欲不振、吐き気、嘔吐などを伴うこともあります。
下痢と便秘を交互に繰り返すタイプです。便の状態が変動することが特徴です。
IBSのはっきりとした原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が複雑に絡み合い、病態に関与していると推測されています。
小腸や大腸は、食べ物の消化・吸収だけではなく、便を体外に排泄する重要な機能も担っています。不要な内容物を肛門方向へ移動させ排泄するためには、腸の収縮運動と、腸の変化を感じ取る知覚機能が必要であり、これらは脳と腸を連絡する自律神経系によって制御されています。
ストレスによって不安状態になると、この自律神経のバランスが乱れ、腸の収縮運動が過剰になったり、痙攣状態になったり、痛みに敏感になる知覚過敏状態に陥ることがあります。IBSの方はこのような状態にあり、痛みを感じやすく、腹痛を起こしやすいと考えられています。
脳と腸は自律神経系をはじめ、内分泌系、免疫系を介して双方向に情報伝達を行っており、互いに影響し合っていることが分かっています。この脳と腸の密接な関係を「脳腸相関(のうちょうそうかん)」といい、この異常を解明するための研究が盛んに行われています。
細菌やウイルスによる感染性腸炎にかかった場合、回復後にIBSを発症しやすくなることが明らかになっています。感染によって腸に炎症が起き、腸の粘膜が弱くなるだけでなく、腸内に存在する腸内細菌叢(腸内フローラ)にも変化が加わり、収縮運動と知覚機能が過敏になるためです。その刺激が脳へと伝わり、苦痛や不安感が増すことも分かっています。
IBSのきっかけになりやすいストレス
BSは、症状だけで診断することはできません。大腸がんなどの悪性腫瘍や炎症性腸疾患など、器質的な病気が隠れていないか確認することが前提となります。まずはこれらの病気がないかを検査で調べ、機能性消化管障害に用いられるRome(ローマ)基準によって診断を行います。
検査としては、血液検査、尿検査、便検査が一般的に行われます。特に、以下のような危険徴候がある場合は、大腸カメラ検査が重要です。
甲状腺機能異常症や糖尿病など、内分泌の病気が原因になることもあるため、血液検査や超音波検査も必要に応じて実施します。
これらの検査で様々な疾患を除外した上で、下記のRome基準に合致していることが確認できればIBSと診断されます。
過去3ヵ月以内に、1ヵ月あたり3日以上、腹痛やお腹の不快感が繰り返して起こっていることに加えて、以下の(1)~(3)のうち2項目以上の特徴を有する場合に診断されます。
IBSの治療は、生活・食事の改善、薬物療法、心理療法の3つが基本となります。
生活習慣の乱れ(不規則な生活、疲労の蓄積、睡眠不足、心理社会的ストレスなど)は、IBSの症状を悪化させる要因となり得るため、これらの見直しを試みます。また、暴飲暴食や深夜の食事、脂肪分の多い食事を避け、規則的な食事を心がけましょう。
IBSの症状を悪化させる可能性のある食品(大量のアルコール、香辛料などの刺激物、コーヒーなど)の摂取は控えるようにします。ヨーグルトなどの発酵食品は、症状の軽減や予防に役立つ効果が期待できます。
食物繊維は、便秘型・下痢型のどちらのタイプにも有効なため、積極的に摂取するようにしましょう。ストレスをためないよう、質の良い睡眠を取ったり、適度な運動や趣味などでリフレッシュすることも有効です。
生活習慣を改善しても症状が軽快しない場合は、薬物療法を行います。最初に用いる薬剤には、腸の運動を整える消化管機能調節薬や、生体にとって有用な菌製剤であるプロバイオティクス(ビフィズス菌・乳酸菌など)、あるいは高分子重合体(水分を吸収して便の水分バランスを調整する薬)などがあります。これらは下痢型・便秘型どちらのタイプにも用いられます。
下痢型の薬剤としては、腸の運動異常を改善するセロトニン3受容体拮抗薬(5-HT3拮抗薬)や下痢止め、腹痛には抗コリン薬が用いられます。便秘型に対しては、便を柔らかくする粘膜上皮機能変容薬や、補助的に下剤が使用されることもあります。
漢方薬では、腹痛や下痢傾向を改善する桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)、便秘に対しては桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)や大建中湯(だいけんちゅうとう)が広く用いられています。
IBSの原因の一つに、食物アレルギーの可能性も挙げられていますので、抗アレルギー薬も選択肢になります。また、心理的な不安が強い場合は、抗うつ薬や抗不安薬が処方されることもあり、症状に合わせて複数の薬剤を組み合わせた薬物療法が行われます。
薬物療法を実施してもIBSの症状が軽快しにくい場合、心理療法が有効なことがあります。心理療法には、ストレスマネジメントに加え、リラクセーション(弛緩法)、集団療法、認知行動療法、対人関係療法などがあります。
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