2026年2月24日

こんにちは。仙台駅前でIBD(炎症性腸疾患)診療と内視鏡診療に力を入れている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。当院は、プライバシーに配慮した個室空間で、大学病院レベルの専門的な治療をスムーズに受けていただけるクリニックを目指しています。
高度な治療(アドバンスド・セラピー)をお薬の仕組みごとに解説したシリーズの第1弾「抗TNF抗体製剤」では、炎症を広める「攻撃の指令書(TNF-α)」をシュレッダーにかけるというお話をしました。今回はその第2弾。飲み薬でありながら、点滴に匹敵するスピードとパワーを持つ「JAK(ジャック)阻害薬」を取り上げます。
過去記事:薬の仕組みを知ろう(①抗TNF抗体編):炎症を起こす「指令書」をキャッチして、火を消し止める
なお、潰瘍性大腸炎治療の全体像やクローン病治療の全体像については、過去の記事もご覧くださいね。
過去記事:潰瘍性大腸炎の治療を総括する:基本の5-ASA製剤から最新治療までのステップ
過去記事:クローン病の治療を総括する:早期の「徹底管理」が未来を分ける理由
1. JAKは細胞の「通信機」
第1弾の例えを思い出してみましょう。暴走した免疫細胞(司令官)が、「攻撃しろ!」という指令書(サイトカイン)をバラ撒いて炎症を広げていました。
指令書を受け取った周りの細胞たちは、「よし、攻撃開始だ!」という情報を細胞の内部へと伝える必要があります。この、情報を受け取って細胞内に伝える「通信機」のような役割を担っているのがJAK(ヤヌスキナーゼ)という分子です。
2. 薬の仕組み:細胞の内側から「通信」を遮断する
点滴や皮下注射(抗体製剤)は、細胞の「外」で指令書を無効化してしまうのが仕事でした。
それに対して、JAK阻害薬(ゼルヤンツ、ジセレカ、リンヴォックなど)は、細胞の「中」に入り込み、通信機(JAK)のスイッチを直接オフにします。
外から「攻撃の指令書」が届いても、基地内の通信機が壊れていれば情報は伝わりません。結果として、炎症の連鎖(リレー)が止まるのです。
点滴や皮下注射(抗体製剤)は分子のサイズが大きいのですが、JAK阻害薬は「低分子化合物(ていぶんしかごうぶつ)」といって非常にサイズが小さいため、飲み薬として吸収されたあとは細胞の内側まで入り込むことができるのです。
3. JAK阻害薬の強み:早さと安定感
JAK阻害薬には、以下のような特徴があります。
効果がとても早い
飲み始めてから効果が実感できるまでの時間が短いのが特徴です。早い方では、飲み始めて1〜3日ほどで下痢や血便が改善し始めます。
他の薬が効かない場合にも頼りになる
最新のネットワークメタ解析(複数の薬の効果を間接的に比較する手法)でも、JAK阻害薬(特にウパダシチニブ)の効果は高いとされています。また、バイオ製剤が効かなくなった方に対しても、高い効果を示します。
通院の負担が少ない
「仕事が忙しくて点滴に通えない」「家で注射するのは怖い」という方にとって、1日1〜2回の飲み薬という選択肢は大きなメリットです。
4. 注意すべき副作用と予防策:帯状疱疹(たいじょうほうしん)
非常に便利なJAK阻害薬ですが、注意すべき副作用もあります。
細胞内の通信を強く抑える一方で、帯状疱疹(体の片側にピリピリした痛みと水ぶくれが出る皮膚の病気)のリスクが他の薬よりも高いことが分かっています。特に日本人では発生率が高くなっています。
65歳以上の方やリスクが高いと考えられる方には、事前に「シングリックス」という帯状疱疹ワクチンの接種をお勧めするなど、当院では安全性を最優先とした管理を行っています。(なお、治療中に生ワクチンは打てませんので、ご注意くださいね。)
過去記事:免疫抑制療法中の感染症とワクチンの注意点
5. 私たちが大切にしていること:Shared Decision Making
現在、保険適応となっているJAK阻害薬は以下の3剤です。主に潰瘍性大腸炎の難治例で威力を発揮しますが、ウパダシチニブだけはクローン病にも適応があります。
トファシチニブ(ゼルヤンツ®)
実績のある最初のJAK阻害薬で、1日2回服用する
フィルゴチニブ(ジセレカ®)
服用が1日1回で済む
ウパダシチニブ(リンヴォック®)
1日1回の服用で、非常に強力
高度な治療(アドバンスド・セラピー)として多くのお薬があり、どれを選ぶか、専門医でも悩ましいことがあります。効果だけでなく、年齢や過去の治療歴、そして将来の妊娠の希望など、総合的に判断する必要があります(JAK阻害薬は妊娠中・授乳中は使用できません)。
まとめ
「飲み薬でしっかり治したい」という潰瘍性大腸炎の患者さんにとって、JAK阻害薬は非常に心強い存在です。
専門的な機序(仕組み)は少し難しいかもしれませんが、「なぜこの薬が自分に合うのか」を理解していただくことで、より前向きに治療に取り組んでいただけると考えています。
当院では、個室で丁寧にお話しを伺いながら、副作用への不安にもしっかり伴走します。仙台駅前で、あなたにとっての「最適解」を一緒に探していきましょう。
引用文献
1. Hanauer S, Panaccione R, et al. Tofacitinib Induction Therapy Reduces Symptoms Within 3 Days for Patients With Ulcerative Colitis. Clin Gastroenterol Hepatol. 2019;17(1):139-147.
2. Loftus EV Jr, Colombel JF, et al. Upadacitinib Therapy Reduces Ulcerative Colitis Symptoms as Early as Day 1 of Induction Treatment. Clin Gastroenterol Hepatol. 2023;21(9):2347-2358.
3. Ananthakrishnan AN, Murad MH, et al. Comparative Efficacy of Advanced Therapies for Management of Moderate-to-Severe Ulcerative Colitis: 2024 American Gastroenterological Association Evidence Synthesis. Gastroenterology. 2024;167(7):1460-1482.
4. Din S, Selinger CP, et al. Systematic review with network meta-analysis: Risk of Herpes zoster with biological therapies and small molecules in inflammatory bowel disease. Aliment Pharmacol Ther. 2023;57(6):666-675.