2026年2月19日

こんにちは。仙台駅前でIBD(炎症性腸疾患)診療と内視鏡診療に力を入れている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。当院は、プライバシーに配慮した個室空間で、大学病院レベルの専門的な治療をスムーズに受けていただけるクリニックを目指しています。
これまで、潰瘍性大腸炎の治療とクローン病の治療に分けて全体像をお話しし、高度な治療(アドバンスド・セラピー)として多くの薬が登場してきたことに触れてきました。今回から、高度な治療を薬剤のグループ(作用機序:薬が効く仕組み)ごとに、さらに深掘りしていきます。
第一弾は、IBD治療の歴史を塗り替えたエース、「抗TNF(ティーエヌエフ)抗体製剤」です。
過去記事:潰瘍性大腸炎の治療を総括する:基本の5-ASA製剤から最新治療までのステップ
過去記事:クローン病の治療を総括する:早期の「徹底管理」が未来を分ける理由
1. TNFは免疫細胞が放つ「攻撃の指令書」
IBD患者さんの腸の中では、本来は体を守るはずの免疫細胞たちが暴走し、自分の腸を敵と見なして「炎症」という火事を起こしています。
暴走した免疫細胞(いわば司令官)が、周囲の細胞に「もっと攻撃を仕掛けろ!」「火を広げろ!」と放つ伝令物質の1つが、TNF-αという物質です。炎症を広げるための「攻撃の指令書」のようなもので、TNF-αは現場に近い中心的な伝令物質になります。
2. 薬の仕組み:指令書が届く前に「シュレッダー」にかける
抗TNF抗体製剤(レミケード、ヒュミラ、シンポニーなど)は、この攻撃の指令書(TNF-α)が周囲の細胞に届く前に、先回りして捕まえてしまいます。
指令書がシュレッダーにかけられたように無効化されれば、攻撃の手が止まり、腸の火事は速やかに鎮火へと向かいます。TNF-αは現場に近い指令書なので、抗TNF抗体製剤は「キレが良い(効果発現が比較的早い)」と言われます。
3. 代表的な薬と、それぞれの強み
本邦では、以下の3剤が活躍しています。
インフリキシマブ(レミケード®など)
病院で行う点滴です。実績が最も豊富で、特に入院を要するような重症・劇症(極めて症状が重い状態)の潰瘍性大腸炎に対して、優先的に選ばれる強力なお薬です。
アダリムマブ(ヒュミラ®など)
2週間に1回、自宅で打てる皮下注射です。病院の滞在時間を抑えられ、通院の間隔も選べるため、お仕事や学校で忙しい方に適しています。
ゴリムマブ(シンポニー®)
4週間に1回の皮下注射で、自己注射も可能です(適応は潰瘍性大腸炎のみ)。注射の回数が少なく、利便性に優れています。
4. 大切なポイント:「二次無効」を防いで長く効かせる
抗TNF抗体製剤には、一つの課題があります。TNF-αに結合する「抗体(こうたい)」は体にとって「よそ者」(異物)と認識されてしまうのです。そのため、長く使い続けるうちに、体が薬を異物と認識してしまうことがあり、薬を攻撃する抗体(これを抗薬物抗体と言います)を作ってしまいます。
この抗薬物抗体ができると、最初は効いていたのに、徐々に効かなくなってしまいます。これを二次無効(にじむこう)や効果減弱(こうかげんじゃく)と呼びます。
二次無効を防ぐために有効なのが、アザチオプリンなど(イムランやロイケリン)の併用です。特にインフリキシマブの場合、セットで使うことでお薬の寿命(効果が続く期間)を大幅に延ばせることが証明されています。ただし、併用が必要かどうか、患者さんごとに慎重に判断しています。
5. 安全な治療のために
強力にお腹を落ち着かせてくれる反面、免疫の伝令を抑えるため、感染症(結核やB型肝炎など)には十分な注意が必要です。当院では、投与前に徹底したスクリーニング(検査)を行い、安全に治療を継続できる体制を整えています。
過去記事:免疫抑制療法中にワクチンを打っても大丈夫?インフルエンザや帯状疱疹ワクチンについて解説します
まとめ
抗TNF抗体製剤は、多くの患者さんを「普通の生活」に連れ戻してくれた、実績あるお薬です。一方で、最近は「より安全性が高い薬」や「より手軽な飲み薬」など、選択肢が広がっています。
患者さん一人ひとりの体の中で、司令官や指令書のバランスはさまざまです。そのため、どの機序(仕組み)が今のあなたに最も適しているか分かりにくいところです。専門的なお話も多くなりますので、診察室でじっくりお話ししながら、あなたにとっての「最適解」を一緒に見つけていきましょう。
引用文献
1. Chanchlani N, Lin S, et al. Mechanisms and management of loss of response to anti-TNF therapy for patients with Crohn’s disease: 3-year data from the prospective, multicentre PANTS cohort study. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2024;9(6):521-538.
2. Colombel JF, Sandborn WJ, et al. Infliximab, azathioprine, or combination therapy for Crohn’s disease. N Engl J Med. 2010;362(15):1383-95.
3. Panaccione R, Ghosh S, et al. Combination therapy with infliximab and azathioprine is superior to monotherapy with either agent in ulcerative colitis. Gastroenterology. 2014;146(2):392-400.
4. Roblin X, Williet N, et al. Addition of azathioprine to the switch of anti-TNF in patients with IBD in clinical relapse with undetectable anti-TNF trough levels and antidrug antibodies: a prospective randomised trial. Gut 2020;69(7):1206–1212.