2026年1月06日
こんにちは。仙台駅前にある「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。
今年も、炎症性腸疾患(IBD)診療と内視鏡検査・治療に注力しながら、ゆったりと診療を受けていただける環境を整えていきたいと思います。
さて、今日はIBD治療において最も多くいただくご質問の一つ、「アドバンスド・セラピー(advanced therapy:高度な治療)の選び方」について解説します。かつてIBDの治療といえば、5-ASA製剤(ペンタサなど)とステロイド、そして免疫調節薬(イムランなど)が中心でした。
しかし、ここ10年ほどで、「アドバンスド・セラピー」と呼ばれる分子標的薬(抗TNFα抗体製剤をはじめとした点滴や皮下注射のほか、JAK阻害剤などの飲み薬もある)が次々と登場し、治療のゴールは「普通の日常生活を送れること」へと進化しています。
ただ、選択肢が増えた分、「どの薬を選べばいいの?」という悩みも増えています。今回は、最新のガイドラインや研究結果をもとに、薬剤を選ぶ際の考え方を整理していきます。
1. 「最強の薬」は決められない?
驚かれるかもしれませんが、実は、最新の薬剤同士を直接ガチンコで比較した「RCT(無作為化比較試験:最も信頼性が高いとされる試験方法)」は、世界的に見ても非常に数が限られています。
つまり、科学的なデータだけで「A薬がB薬より絶対に良い」と断言するのは難しいのが現状です。実際に、日本の最新の治療指針でも、多くの薬剤が「横並び」で記載されています。そのため、いくつかの「判断材料」を組み合わせて、一人ひとりに合った薬を選んでいくことになります。
2. 私たちが「一剤」を選ぶときの3つのポイント
データが横並びだからこそ、主治医の「見極め」が重要になります。私たちは、主に以下の3つの視点から、あなたに最適な薬を一緒に考えます。
I. 病気の勢い(重症度)
例えば、今すぐに症状を抑えないと手術の危険があるような重症例では、歴史があり即効性も期待できる「インフリキシマブ」や「タクロリムス」を優先的に考えます。入院するほどでは無くとも、症状が強い場合には、効果の早い「JAK阻害剤(ウパダシチニブなど)」を考えることもあります。
一方で、そこまで症状が強くない場合は、途中で効果が弱まらずに、長く安定して使えるような薬を考えることもあります。
II. これまでの治療歴
初めて「アドバンスド・セラピー」を使う方(バイオナイーブ)なのか、それとも既にいくつかの薬を試してきた方(バイオエクスポーズド)なのかで、薬の効き目は変わります。
米国の最新のガイドライン(AGAガイドライン)では、この「治療歴」によって推奨する薬の順番を変えていますが、私たちはこうした海外の基準も参考にしつつ、日本の実情に合わせた柔軟な選択を心がけています。
III. あなたの「ライフスタイル」と「未来」
ここが一番大切です。
お仕事や通院のしやすさ: 病院での点滴や皮下注射が良いか、自宅での自己注射が良いか、あるいは手軽な飲み薬が良いか。
ライフステージ: 近いうちに妊娠・出産を希望されているか(一部の分子標的薬は妊娠中でも比較的安全に使用できるというデータがあります)。
安全性: ご高齢の方や、過去に他の病気を経験された方では、感染症のリスクがより低い薬剤を慎重に選びます。
3. 当院ならではの工夫
当院では、診察室をゆったりとした個室にしており、看護師があなたの元へ伺って採血や皮下注射を行います。移動の負担を減らし、プライバシーを保ちながら、リラックスして治療を受けていただけます。
点滴に時間を要する薬剤の場合は、リラックスできる安静室を活用するなど、スムーズに治療が終わるよう工夫しています。
また、どの薬を選ぶにしても、免疫を調整する治療を始める前には「準備」が必要です。以前の「お困りQ&A」でも触れた通り、B型肝炎や結核などの感染症が隠れていないか、事前のチェック(スクリーニング検査)を徹底しています。
まとめ
アドバンスド・セラピーの選択に、100点満点の正解はありません。日本からの報告でも、特定の薬剤同士で効果に大きな差がなかったとされる一方で、継続率(その薬を使い続けられる割合)には違いが見られることも分かってきました。
「どれが一番か」ではなく、「今のあなたにとって、どれがベストか」。最新のデータ(エビデンス)と、あなたの「プロファイル(背景)」を掛け合わせて、「あなたにとっての最適解」を見つけることは可能です。
「今の治療でいいのかな?」「もっと自分に合う薬があるかも」と思ったら、いつでもお気軽にご相談くださいね。なお、次回はそれぞれの薬についても解説していきます。
引用文献
1. 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和6年度改訂版
2. Singh S, Loftus EV Jr, et al. AGA Living Clinical Practice Guideline on Pharmacological Management of Moderate-to-Severe Ulcerative Colitis. Gastroenterology. 2024;167(7):1307-1343.
3. Scott FI, Ananthakrishnan AN, et al. AGA Living Clinical Practice Guideline on the Pharmacologic Management of Moderate-to-Severe Crohn’s Disease. Gastroenterology. 2025;169(7):1397-1448.
4. Naganuma M, Shiga H, et al. First-line biologics as a treatment for ulcerative colitis: a multicenter randomized control study. J Gastroenterol. 2025;60(4):430-441.