2026年1月13日

こんにちは。仙台駅前で炎症性腸疾患(IBD)診療に力を入れている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。
今回は、潰瘍性大腸炎と診断された際、どのような流れで治療が進んでいくのか、最新の「治療指針」に基づいて整理してみたいと思います。
一つひとつの内容はこれまでの記事でも解説していますが、全体像が分かるように心がけました。「薬がどんどん増えて(変わって)いくのが不安」「いつまでこの治療を続けるの?」という疑問にお答えしていきます。
1. 治療のゴールは「普通の生活」
治療を始める前に知っておいていただきたいのは、今のIBD治療の目標は、単に「血便・下痢を止める」だけではないということです。
寛解(かんかい:症状が落ち着いている状態)を維持し、仕事や学校、趣味など、病気になる前と変わらない「普通の日常生活」を取り戻し、それを長く続けることがゴールです。
2. 軽症:まずは基本の「5-ASA製剤」から
症状が比較的軽めの「軽症」の場合、最初の一歩は5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤です。
どんな薬?
メサラジン(ペンタサ、アサコール、リアルダ)やサラゾスルファピリジン(サラゾピリン)といったお薬です。腸の炎症を直接抑える、治療の土台となるお薬です。また、炎症が落ち着いてからも、長期に継続します。
局所製剤の活用
潰瘍性大腸炎は「直腸」から炎症が始まるため、飲み薬だけでなく、お尻から入れる局所製剤(きょくしょせいざい:坐剤や注腸剤)を併用することが非常に効果的です。
注意点(5-ASA不耐)
稀に、このお薬自体が体に合わず、逆に下痢や発熱、腹痛がひどくなってしまう5-ASA不耐(ふたい)という状態の方がいます。最近ではその割合が増えており、10%前後とも言われています。「薬を飲み始めて逆に調子が悪いな」と感じたら、すぐに相談してください。
過去記事:基本薬5-ASAを続ける本当の理由(ペンタサ・アサコール・リアルダ)
3. 中等症:寛解導入の標準薬は「ステロイド」
5-ASA製剤を最大量使っても十分な効果が得られない場合や、症状が強い「中等症」以上の場合、ステロイド(プレドニンなど)が標準的な選択肢となります。
役割
火事(炎症)を一気に消し止める強力なお薬です。
出口戦略が大事
ステロイドは「寛解導入(かんかいどうにゅう:炎症を抑え込むこと)」としては非常に優秀ですが、副作用の関係から、長く飲み続けるお薬ではありません。3か月以内をめどにゆっくり量を減らしながら、離脱(中止)を目指します。
新しい選択肢
大腸で徐々に溶けて直接働く、ブデソニド(コレチメント)という新しいタイプのステロイドも登場しています。副作用も抑えられます。
4. 難治例:アドバンスド・セラピー(高度な治療)への移行
ステロイドを使っても良くならない「ステロイド抵抗例(ていこうれい)」や、ステロイドを減らすと症状が出てしまう「ステロイド依存例(いぞんれい)」の方々を「難治例(なんちれい)」と呼びます。
ここで使われるのが、アドバンスド・セラピー(高度な治療)です。
現在、以下のような選択肢があり、多くの新薬が登場しています。
点滴や皮下注射のバイオ製剤(生物学的製剤)
レミケード、ヒュミラ、エンタイビオ、ステラーラ、オンボー、スキリージ、トレムフィアなど
飲み薬の低分子化合物
ゼルヤンツ、ジセレカ、リンヴォック、ゼポジア、ベルスピティなど
正直なところ、現在の日本の治療指針では、これらのお薬は「横並び」で記載されており、どれが一番優れているとは明示されていません。そのため、「どれを選ぶか」は主治医の腕の見せ所でもあります。
私たちは、患者さんの年齢、これまでの治療歴、仕事や学業(それによる通院の頻度)、そして将来の妊娠・出産の希望などを総合的に判断して、最適な一つを一緒に選びます。
5. 治療を安全に進めるために(感染症への注意)
免疫を調整する強力なお薬(ステロイドやアドバンスド・セラピー)を使う際、最も気をつけなければならないのが感染症です。
治療を始める前には、B型肝炎や結核などのスクリーニング(検査)を必ず行います。診断がついた段階でこれらの検査を済ませておくと、必要になった時にスムーズに強力な治療へと移行できます。
まとめ
潰瘍性大腸炎の治療は、マラソンのようなものです。
まずは5-ASA製剤で土台を作り、必要に応じてステロイドで火を消し、難治な場合には多様なアドバンスド・セラピーの中からあなたに合った一足を選んでいく。
自分の現在地がどこなのか、次はどんな選択肢があるのか。これらを知ることで、少しでも不安が解消されれば幸いです。
当院では、「大学病院レベルの専門治療を、クリニックの快適さで」受けていただけるよう工夫しています。気になることがあれば、いつでもご相談ください。
引用文献
1. 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和6年度改訂版
2. Hiraoka S, Fujiwara A, et al. Multicenter survey on mesalamine intolerance in patients with ulcerative colitis. J Gastroenterol Hepatol. 2021;36(1):137-143.
3. Suzuki K, Kakuta Y, et al. Genetic Background of Mesalamine-induced Fever and Diarrhea in Japanese Patients with Inflammatory Bowel Disease. Inflamm Bowel Dis. 2022;28(1):21-31.