2026年2月03日

こんにちは。仙台駅前で炎症性腸疾患(IBD)診療に力を入れている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。当院は、プライバシーに配慮した個室での診察・治療で、患者さんの不安に寄り添う診療を心がけています。
以前、潰瘍性大腸炎の治療についてまとめた記事を書きましたが、今回はそのペアとなる「クローン病治療の総括」をお届けします。
同じ炎症性腸疾患(IBD)でも、潰瘍性大腸炎とクローン病では、治療の考え方が少し異なります。全体の流れが分かったところで、それぞれの治療薬の特徴も合わせてご覧くださいね。
1. 治療の目標は「粘膜治癒」へ
以前のクローン病治療は「腹痛や下痢をなくすこと」がゴールでした。しかし、「症状がなくても、腸の中に炎症が残っている」ことが、半数近くの患者さんで見られます。そのまま炎症を放置すると、腸にダメージが蓄積し、最終的に手術が必要になってしまいます。
そのため、今の治療の目標は、症状を改善させるだけではなく、カメラ検査で見て腸がきれいな状態である「内視鏡的寛解(かんかい)あるいは粘膜治癒(ねんまくちゆ)」を目指すような戦略へと変わりました。これをTreat to Target戦略(T2T:目標達成に向けた治療戦略)と言います。
もちろん粘膜治癒の先には、仕事や学校など、病気になる前と変わらない「普通の日常生活」を取り戻していくことがあります。
2. 「栄養療法」から「最新の薬物療法」へ
日本はもともと、成分栄養剤(エレンタールなど)を用いた栄養療法が非常に盛んで、第一選択とされてきました。もちろん今でも寛解維持(かんかいいじ:落ち着いた状態を保つこと)において栄養療法は有効ですが、強力な薬の登場により、現在は薬物療法が治療の柱となっています。
潰瘍性大腸炎では治療の土台となるのが5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤(クローン病ではペンタサのみ)ですが、実はクローン病においてはその立ち位置が少し揺らいでいます。
最新のクローン病の欧州ガイドライン(ECCO)では、罹患部位に関わらず「有効性のエビデンス(科学的根拠)が一貫して欠如している」として、寛解導入・維持ともに使用しないことを推奨するという非常に厳しい見解が出されました。
もちろん、本邦の治療指針では、クローン病の軽症例の選択肢として現在も残っています。しかし、クローン病は進行性の病気であるため、「とりあえず5-ASAで様子を見る」という時間が、将来の腸管ダメージに繋がってしまうリスクも考慮しなければなりません。
過去記事:基本薬5-ASAを続ける本当の理由(ペンタサ・アサコール・リアルダ)
3. 「トップダウン戦略」の重要性
5-ASA製剤の比重が高くないクローン病において、炎症が強い時期(活動期)に火消しの役割を果たすのはステロイドです。従来のステロイドのほか、症状が軽い方では、全身への副作用の少ないブデソニド(クローン病ではゼンタコート)も用いられます。
潰瘍性大腸炎でも、ステロイドはあくまで「一時的な」火消しでしたが、クローン病でもだらだら使わないことが強調されています。
また、基本薬から段階的に進めることが多い潰瘍性大腸炎とは異なり、クローン病では「時期を逸せずに、早めに強力な治療を始める」ことが推奨されています。これを、トップダウン戦略と呼びます。
重症化のリスクが高い方には、抗TNF抗体製剤などのアドバンスド・セラピー(高度な治療)を早くから導入することで、再燃率を大きく下げ、将来の手術率も抑えられるというデータが出ています。
アドバンスド・セラピーの中で「どれを選ぶか」は悩まれる点ですので、これまでの治療歴や希望を考え合わせて、一緒に選んでいきましょう。
4. バイオマーカーで「腸の火事」をモニタリング
カメラ検査で見ても炎症が落ち着いている状態を目指すとはいえ、頻繁に検査をするのは大変ですよね。
そこで当院では、LRG(ロイシンリッチα2グリコプロテイン:血液検査の1つ)や便中カルプロテクチン(便検査の1つ)といったバイオマーカーを活用しています。
これらの検査は「腸の炎症の火種」を数値化でき、カメラ検査に近い精度で腸の状態を把握できます。数値が上がってきたら、症状が出る前にお薬を調整する。これが、腸を守るための最新の管理術です。
まとめ
クローン病は「進行させないこと」が何より大切です。当院では、医師の診察だけでなく、看護師もカートで各個室を回って採血や投薬を行うスタイルをとっています。移動の負担なく、プライバシーを守りながら受診いただけます。
「今の治療で本当に腸の炎症は消えているのかな?」と少しでも不安になったら、ぜひ専門医にご相談ください。仙台駅前で、皆さまの「普通の日常生活」を守るお手伝いをさせていただきます。
引用文献
1. Turner D, Ricciuto A, et al. STRIDE-II: An Update on the Selecting Therapeutic Targets in Inflammatory Bowel Disease (STRIDE) Initiative of the International Organization for the Study of IBD (IOIBD): Determining Therapeutic Goals for Treat-to-Target strategies in IBD. Gastroenterology. 2021;160(5):1570-1583.
2. Gordon H, Minozzi S, et al. ECCO Guidelines on Therapeutics in Crohn’s Disease: Medical Treatment. J Crohns Colitis. 2024;18(10):1531-1555.
3. Law CCY, Tkachuk B, et al. Early Biologic Treatment Decreases Risk of Surgery in Crohn’s Disease but not in Ulcerative Colitis: Systematic Review and Meta-Analysis. Inflamm Bowel Dis. 2024;30(7):1080-1086.
4. Noor NM, Lee JC, et al. A biomarker-stratified comparison of top-down versus accelerated step-up treatment strategies for patients with newly diagnosed Crohn’s disease (PROFILE): a multicentre, open-label randomised controlled trial. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2024;9(5):415-427.