2025年12月02日
こんにちは。仙台駅前にある「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。
当院は、炎症性腸疾患(IBD)と内視鏡検査・治療を専門とし、患者さんがリラックスして過ごせるカフェのような空間づくりを心がけています。
さて、今回のテーマは、IBD治療のベースとなるお薬「5-アミノサリチル酸製剤(以下、5-ASA製剤)」についてです。
商品名で言うと、ペンタサ、アサコール、リアルダ、サラゾピリンなどがこれに当たります。
多くの患者さんが毎日飲まれているこのお薬。「量が多い」「粒が大きい」「調子が良いのになぜ飲み続けるの?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
今日は、このお薬の重要性と、最新の治療トレンドについてお話しします。
1. なぜ、症状がなくても飲み続ける必要があるの?
潰瘍性大腸炎やクローン病は、良くなったり(寛解:かんかい)、悪くなったり(再燃:さいねん)を繰り返す病気です。
5-ASA製剤は、腸の粘膜に直接作用して炎症を抑える働きがあります。
潰瘍性大腸炎の場合:まさに「守りの要」
潰瘍性大腸炎において、5-ASA製剤は基本かつ最も重要なお薬です。
症状が消えて「治った」と感じても、目に見えないレベルの火種(炎症)が腸に残っていることがよくあります。この火種を放置すると、再び激しい腹痛や血便が襲ってきます。
5-ASA製剤を継続することは、再燃率を大幅に下げることがわかっています。さらに重要な点として、長期間服用を続けることで大腸がんの発生リスクを抑える予防効果も多くの研究で示唆されています。
つまり、この薬は「今の症状を抑える」だけでなく、「将来の自分の体を守る」ために飲んでいるのです。
クローン病の場合:少し事情が違います
日本の治療指針では、クローン病に対しても、軽症〜中等症の場合に5-ASA製剤が使用されます。しかし、実は海外(ヨーロッパなど)の最新ガイドラインでは、「クローン病に対して5-ASA製剤は(有効性の科学的根拠が乏しいため)推奨しない」という方向へ変わってきています。
もちろん、日本では保険診療として認められていますし、効果を実感されている患者さんもいらっしゃいます。ただ、クローン病治療の主役は、栄養療法や免疫調節薬(イムランなど)、生物学的製剤(レミケードやエンタイビオなど)へとシフトしているのが現状です。
「漫然と飲み続けるのではなく、効果を見極めて使う」ことが、クローン病においては大切です。
2. 「飲み忘れ」が一番のリスク?
「うっかり飲み忘れてしまった」「外出先に持っていくのを忘れた」
誰にでも経験があることだと思います。
しかし、海外のデータでは、服薬アドヒアランス(決められた通りに薬を飲むこと)が低い患者さんは、きちんと飲んでいる方に比べて再燃リスクが約5倍高まるという報告もあります。
そうは言っても、1日3回、大量の錠剤を飲むのは大変ですよね。
現在は、「1日1回の服用で済む製剤(リアルダなど)」や、「有効成分が濃縮されて飲みやすい顆粒タイプ(ペンタサ顆粒)」なども登場しています。
「今の薬が飲みにくい」「生活リズムに合わない」と感じている方は、我慢せずにご相談ください。薬の種類を変えるだけで、驚くほど楽になることがあります。
3. 「いつまで」続けるの?
結論から言うと、潰瘍性大腸炎の患者さんの多くは「ずっと(寛解維持期も)」飲み続けることが推奨されます。
特に、粘膜の炎症が完全に治まっていない場合(内視鏡的寛解に至っていない場合)は、症状がなくても量を減らさずに、しっかりとした量(最大量)を維持することが、長期的な安定につながります。
一方、クローン病の方や、他の強力な治療(生物学的製剤など)で完全に安定している方、あるいは5-ASA製剤でアレルギー(発熱や下痢の悪化など)が出てしまった方は、主治医と相談の上で中止・減量を検討することもあります。
4. まとめ:自己判断での中断は禁物です
「5-ASA製剤」は、IBD治療の基本となる大切なお薬ですが、病気の種類(潰瘍性大腸炎かクローン病か)、炎症の範囲、ライフスタイルによって最適な「種類」や「飲み方」は異なります。
当院では、これまでの経験や最新のガイドラインに基づき、お一人おひとりに最適な処方を提案します。
「薬を減らしたい」「今の薬が合っているかわからない」といったお悩みも、診察室で遠慮なくお話しください。ゆったりとした空間で、一緒にベストな治療法を考えていきましょう。
引用文献
Ford AC, Khan KJ, et al. Efficacy of oral 5-aminosalicylates in ulcerative colitis: systematic review and meta-analysis. Am J Gastroenterol. 2012;107(2):167-176.
Gordon H, Minozzi S, et al. ECCO Guidelines on Inflammatory Bowel Disease 2024. J Crohns Colitis. 2024;18(10):1531-1555.
Sehgal P, Colombel JF, et al. Systemic review: safety of mesalazine in ulcerative colitis. Aliment Pharmacol Ther. 2018;47(12):1597–1609.