2026年3月10日

こんにちは。仙台駅前でIBD(炎症性腸疾患)診療と内視鏡診療に力を入れている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。当院は、プライバシーに配慮した個室空間で、大学病院レベルの専門的な治療をスムーズに受けていただけるクリニックを目指しています。
高度な治療(アドバンスド・セラピー)をお薬の仕組みごとに解説したシリーズの第1弾「抗TNF抗体製剤」、第2弾「JAK阻害薬」に続き、今回の第3弾では「抗インテグリン抗体製剤(ベドリズマブ:エンタイビオ®)」を取り上げます。
※今回は「リンパ球輸送阻害薬(腸に兵士を送り込まない薬)」という大きなカテゴリーの中から、まずベドリズマブを解説します。飲み薬のカロテグラストメチルや、最近登場したS1P受容体調節薬については、また改めてお話ししますね。
過去の記事をまだご覧になっていない場合は、「潰瘍性大腸炎治療の全体像」や「クローン病治療の全体像」を読んでもらってから、各論である「高度な治療(アドバンスド・セラピー)」に進んでくださいね。
過去記事:潰瘍性大腸炎の治療を総括する:基本の5-ASA製剤から最新治療までのステップ
過去記事:クローン病の治療を総括する:早期の「徹底管理」が未来を分ける理由
過去記事:薬の仕組みを知ろう(①抗TNF抗体編):炎症を起こす「指令書」をキャッチして、火を消し止める
過去記事:薬の仕組みを知ろう(②JAK阻害薬編):細胞の「通信機」を切って、炎症のリレーを止める
1. インテグリンは、兵士が腸に入るための「通行証」
これまでのシリーズの例えを思い出してみましょう。腸という現場(戦場)で火事(炎症)を起こしているのは、暴走した免疫細胞(兵士)たちです。
兵士たちは血管という高速道路を移動していますが、腸で暴れるためには、腸に続く「インターチェンジ(出口)」で降りなければなりません。このとき、兵士が「私は腸に行く担当です」と出口で見せる通行証のような役割をしているのがインテグリンという分子です。
2. 薬の仕組み:腸の「インターチェンジ」を封鎖する
抗インテグリン抗体(ベドリズマブ)の役割は、兵士が持っているこの「腸専用の通行証」を無効にしてしまうことです。
通行証が使えない兵士たちは、高速道路を通り過ぎるしかなく、腸という現場に入ることができません。火事を起こす兵士が入ってこなくなれば、次第に火事は収まっていきます。
最大の特徴は、この薬が「腸の出口」だけをブロックする点です。肺など、他の場所の通行には影響しないため、全身の免疫を落とさずに済むのです。
3. 潰瘍性大腸炎(UC)での立ち位置:安全性の高さについてはエース
本邦の治療指針では、高度な治療(アドバンスド・セラピー)として、多くの薬剤が「横並び」で記載されています。患者さん一人ひとりの状態に合わせて選べるよう、幅がもたれています。
2024年に発表された米国消化器病学会(AGA)の最新ガイドラインではもう少し踏み込んでおり、潰瘍性大腸炎においてベドリズマブは非常に高く評価されています。
「最初の一手」に強い
高度な治療(アドバンスド・セラピー)を使ったことがない方(バイオナイーブ例)で、特に高い効果が期待できます。
副作用が少ない
感染症のリスクが他のお薬より低いため、高齢の方や持病のある方など、安全性を最優先したい場合に第一選択となります。
ゆっくりと治していく
第2弾で紹介したJAK阻害薬(リンヴォックなど)は、効果は早いですが帯状疱疹などに注意が必要です。一方、ベドリズマブは仕組みを踏まえると「ゆっくりと安全に」治していくのが得意なお薬なので、炎症があまり強すぎない方に向いています。
4. クローン病(CD)ではどうなの?
クローン病でもベドリズマブは使われますが、最新の報告をふまえても、クローン病では「抗TNF抗体製剤」や「抗IL-23抗体製剤」がメインストリーム(主流)となります。
ただし、他の薬が合わない方や、安全性を重視する場合には、クローン病でも大切な選択肢の一つとなります。
5. 当院での治療:「点滴」と「自己注射」を選べる
ベドリズマブは最初と2週目には、病院で30分ほどの点滴で投与しますが、その後は自宅で打てる自己注射(皮下注射)に切り替えることも可能です。
当院で点滴を行う場合は、個室の診察室でも行えますし、専用ベッドのある安静室(リカバリールーム)でリラックスしてお過ごしいただくこともできます。自己注射を希望される場合も、看護師が丁寧に指導しますので、お仕事で忙しい方も無理なく続けられます。
まとめ
「強い薬を使うのは、副作用が怖くて抵抗がある……」
そう感じている方にこそ、「腸にだけ効く」という仕組みを持つこの薬を知っていただきたいと考えています。
あなたのお腹の状態と、ライフスタイルにフィットする「最適解」を、最新のエビデンス(科学的根拠)に基づきながら一緒に選んでいきましょう。
引用文献
1. Feagan BG, Rutgeerts P, et al. Vedolizumab as induction and maintenance therapy for ulcerative colitis. N Engl J Med. 2013;369(8):699-710.
2. 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和6年度改訂版
3. Singh S, Loftus EV Jr, et al. AGA Living Clinical Practice Guideline on Pharmacological Management of Moderate-to-Severe Ulcerative Colitis. Gastroenterology. 2024;167(7):1307-1343.
4. Scott FI, Ananthakrishnan AN, et al. AGA Living Clinical Practice Guideline on the Pharmacologic Management of Moderate-to-Severe Crohn’s Disease. Gastroenterology. 2025;169(7):1397-1448.