2026年2月09日

こんにちは。仙台駅前でIBD(炎症性腸疾患)診療と内視鏡診療に力をいれている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。当院は、プライバシーに配慮した個室での診察・治療を特徴としており、リラックスして受診いただける環境を整えています。
今日お話しするのは、若い世代の患者さんから多く受けるご質問の一つ、「妊娠・授乳とIBD治療」についてです。
「持病があると子供ができにくいのでは?」「薬が赤ちゃんに影響しないか心配」という不安を抱えている方は多くいらっしゃいます。最近では多くのデータが集まってきて、IBDの治療を継続しながら、安全に出産・育児ができる時代になっています。
1. 「妊娠のしやすさ(妊孕性)」について
「IBDだと子供ができにくいの?」という不安を耳にしますが、病気が落ち着いている「寛解期(かんかいき)」であれば、健康な方と妊娠率は変わらないことが分かっています。
ただし、病気が悪化している「活動期」には、炎症の影響で一時的に妊娠しにくくなることがあります。大腸全摘後などの骨盤内の手術を受けた後は、癒着(ゆちゃく:臓器同士がくっつくこと)などにより自然妊娠が難しくなるケースもありますが、その場合も体外受精などの方法で十分に妊娠・出産が可能です。
なお、男性側についても、IBDの病気そのものが不妊の原因になることは基本的にありません。男女ともに、まずは「しっかり治療してお腹を落ち着かせること」が妊活の第一歩となります。
2. 妊娠中の治療目標は「お母さんの寛解(安定した状態)」
妊娠すると「心配だから薬を休みたい」と考える方が多くいらっしゃいます。また、薬の種類によっては、妊娠後期には休みましょうと推奨していたものもありました。しかし、現在は考え方が大きく変わっています。
妊娠に関するデータも集まってきて、多くのIBD治療薬は赤ちゃんに大きな悪影響を及ぼさないことが分かってきました。それ以上に、「お母さんの病気が悪化(再燃)して栄養状態が悪くなったり、強い炎症が起きたりすること」の方が、流産や早産、低出生体重児のリスクをはるかに高めてしまうのです。
令和8年3月に公開される予定の治療指針(令和7年度改訂版)でも、「妊娠において母体の疾患コントロールは最も重要であり、原則として全期間において治療を中止する必要はない」という、非常に踏み込んだ内容になる予定です。つまり、「適切に薬を続け、良い状態を保つこと」が、結果として赤ちゃんを一番に守ることにつながるのです。
3. お薬ごとの安全性と注意点
多くのお薬が継続可能ですが、種類によって注意点が異なります。特にアドバンスド・セラピー(高度な治療)を受けている方は、バイオ製剤なのか、低分子化合物(ていぶんしかごうぶつ)なのか、によって大きく異なります。
基本の薬(5-ASA製剤、ステロイドなど)
5-ASA製剤(ペンタサ、アサコール、リアルダ)やステロイドは、長年の実績から、妊娠中も安全に使えるとされています。
バイオ製剤(点滴や皮下注射で投与されるもの)
レミケード、ヒュミラ、エンタイビオ、ステラーラなどは、以前は妊娠後期に休薬することが推奨されていました。しかし、大規模な調査も報告され、妊娠中は継続しても安全性には問題ないことが示されてきています。
【要注意】低分子化合物(飲み薬として処方されるもの)
飲み薬であるJAK阻害剤(ゼルヤンツ、ジセレカ、リンヴォック)、S1P受容体調節薬(ゼポジア、ベルスピティ)、カロテグラストメチル(カログラ)は、まだデータが少なく、現在の添付文書(お薬の説明書)では「禁忌(きんき:使ってはいけない)」とされています。妊娠を計画される場合は、事前にお薬の切り替えを相談しましょう。
過去記事:基本薬5-ASAを続ける本当の理由(ペンタサ・アサコール・リアルダ)
4. 授乳についても「原則OK」です
5-ASA製剤などは母乳へ移行する量が少なく安全です。バイオ製剤は、分子が非常に大きいため、母乳へ移行する量はごくわずかです。また、赤ちゃんが飲んでも胃腸で分解されるため、影響はないと考えられています。
ただし、「低分子化合物」については、妊娠中だけでなく授乳中も避けるのが一般的です。お薬の種類に合わせて、個別に方針を決めていきましょう。
まとめ
「IBDがあるから」といって、親になる喜びをあきらめる必要は全くありません。大切なのは、主治医としっかり話し合い、安定した体調で妊娠・出産を迎えることです。
妊娠中は通院自体が負担になることもあります。当院では、診察室から動かずに採血や投薬が受けられるため、お腹が大きくなっても安心です。大学病院での経験を活かし、産婦人科の先生とも連携しながら安全な出産を目指します。
不安なことがあれば、いつでも私たち専門医にご相談ください。仙台駅前で、皆さまの新しい家族のスタートを全力で応援しています。
引用文献
1. 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和6年度改訂版(令和8年3月に令和7年度改訂版が公開される予定です)
2. 炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020 改訂第2版
3. Mahadevan U, Long MD, et al. Pregnancy and Neonatal Outcomes After Fetal Exposure to Biologics and Thiopurines Among Women With Inflammatory Bowel Disease. Gastroenterology. 2021;160(4):1131-1139.
4. Chugh R, Long MD, et al. Maternal and Neonatal Outcomes in Vedolizumab- and Ustekinumab-Exposed Pregnancies: Results From the PIANO Registry. Am J Gastroenterol. 2024;119(3):468-476.