2026年9月08日

こんにちは。仙台駅前でIBD(炎症性腸疾患)診療と内視鏡診療に力を入れている「せんだい駅前 消化器IBDクリニック」院長の志賀 永嗣です。当院は、プライバシーに配慮した個室空間で、大学病院での経験を活かした専門的な治療をスムーズに受けていただけるクリニックを目指しています。
これまでのシリーズでは、IBDの薬物療法・合併症・予防医療・手術など、治療に関するさまざまなテーマをお話ししてきました。今回は少し視点を変えて、「治療を続けるための経済的なサポート」、すなわち難病医療費助成制度についてお話しします。
「病気や治療法のことは調べるけれど、制度のことはよく分からないまま」という方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
過去記事:潰瘍性大腸炎の治療を総括する:基本の5-ASA製剤から最新治療までのステップ
過去記事:クローン病の治療を総括する:早期の「徹底管理」が未来を分ける理由
1. そもそも「指定難病」とは?─IBDは国が認めた難病です
潰瘍性大腸炎とクローン病は、2015年に施行された「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」に基づく指定難病に認定されています。現在、全国で指定難病は348疾病あり、IBDはその中に含まれています。
指定難病に認定されると、「特定医療費助成制度」という医療費の公的助成を受けることができます。この制度を使うことで、毎月の医療費の自己負担に「上限額」が設けられ、それを超えた分は国と都道府県が負担してくれます。
アドバンスド・セラピー(生物学的製剤・JAK阻害剤など)は薬剤費だけで月に数万円〜十数万円に上ることもありますが、この制度を利用することで実際の自己負担は大幅に軽減されることになります。
2. 対象になるのはどんな人?─「重症度基準」がポイント
助成を受けるためには、単にIBDと診断されているだけでなく、一定の重症度基準を満たすことが必要です。
潰瘍性大腸炎(UC)の場合
臨床的重症度分類で「中等症以上」であることが基本的な条件です。
クローン病(CD)の場合
IOIBDスコア(国際的な疾患活動性スコア)が「2点以上」であることが基本的な条件です。
「今は症状が落ち着いていて軽症なので、対象にならないかも…」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、重症度基準を満たさない場合でも、「軽症高額該当(けいしょうこうがくがいとう)」という特例があります。月ごとの医療費総額(10割)が33,330円を超える月が直近12か月のうち3か月以上あれば、重症度基準を満たさなくても助成の対象になります。
「自分は対象になるかどうか分からない」という方は、まず主治医に確認してみることをお勧めします。
3. 自己負担の上限額はいくら?─所得に応じて決まります
助成を受けた場合、自己負担割合は2割となり、さらに月ごとの自己負担に上限額が設定されます。上限額は世帯の所得(市区町村民税の課税状況)に応じて異なります。
おおまかなイメージとして、一般的な所得の方(住民税課税世帯)であれば月の上限額は1〜3万円程度に設定されています。低所得の方はさらに低く、生活保護受給者は自己負担ゼロです。
また、すでに医療受給者証をお持ちの方には、さらに自己負担を軽減できる「高額かつ長期(こうがくかつちょうき)」という特例もあります。毎月の医療費総額(10割)が5万円を超える月が年間6か月以上ある方は、一般所得・上位所得の方でも自己負担上限額がさらに軽減されます。生物学的製剤やJAK阻害剤などのアドバンスド・セラピーを継続している方は、この特例に該当することが多いため、忘れずに申請することが大切です。
4. 申請の流れ─「難病指定医」と「指定医療機関」がカギ
申請には以下の流れが必要です。
ステップ①:難病指定医に診断書(臨床調査個人票)を作成してもらう
申請に必要な診断書は、都道府県から指定を受けた「難病指定医(なんびょうしていい)」にしか作成できません。なお、当院は難病指定医が在籍しており、診断書の作成が可能です。
ステップ②:書類を揃えて都道府県の窓口(最寄りの保健所等)に申請する
診断書のほかに、申請書・住民票・保険証の写し・市区町村民税の課税証明書などが必要です。書類は各都道府県・政令指定都市のホームページからダウンロードできるものもあります。なお、政令指定都市である仙台市では、保健所ではなく区役所に申請します。
ステップ③:審査・認定後に「医療受給者証」が交付される
審査には数か月かかりますが、助成の開始日は「診断書に記載された診断年月日」まで遡ることができます。申請が遅れても、遡及(そきゅう)して助成が受けられる仕組みになっていますので、あまり心配せずに、まず申請することが大切です。
ステップ④:「指定医療機関」での受診時に受給者証を提示する
医療受給者証は、都道府県から指定を受けた「指定医療機関(していいりょうきかん)」でのみ使用できます。なお、当院も指定医療機関です。受診の際に、受給者証と自己負担上限額管理票を忘れずに持参し、窓口でご提示ください。
有効期間と更新について
医療受給者証の有効期間は原則として1年間です。毎年更新の申請が必要となりますので、更新時期を忘れないようにご注意ください。当院では、更新の時期が近づいた際にご案内しております。
5. 助成制度と組み合わせると便利なその他の支援
難病医療費助成制度以外にも、IBD患者さんが利用できる可能性がある支援があります。
障害者手帳・障害年金
IBDが重症で日常生活に支障がある場合、障害者手帳や障害年金の対象になる可能性があります。詳しくはお住まいの市区町村の窓口や社会保険労務士にご相談ください。
高額療養費制度
難病の医療費助成と高額療養費制度(こうがくりょうようひせいど)は、場合によって組み合わせて活用することができます。ただし、適用関係が複雑なため、窓口で確認されることをお勧めします。
就労に関する支援
IBDで就労に困難を抱えている方には、ハローワークや障害者就業・生活支援センターの活用も選択肢の一つです。また、難病患者就職サポーターという専門の支援者に相談できる窓口もあります。
過去記事:「トイレが近くて旅行が不安」「職場にどう伝えれば?」IBD患者さんの仕事・学校・旅行の疑問に専門医が答えます
6. まとめ
IBDの治療を長く続けるために、医療費の不安を減らすことも大切な「治療の一部」です。
難病医療費助成制度のポイントを3つにまとめます。
① 潰瘍性大腸炎・クローン病は指定難病であり、医療費助成が受けられる
② 重症度基準を満たさない場合でも「軽症高額該当」という特例がある
③ 助成開始日は診断年月日に遡及できるため、まず申請することが大切
「自分は対象になるのか」「申請書類をどう揃えればいいか」など、何かご不明な点があれば、受診の際にお気軽にご相談ください。制度を上手に活用しながら、無理なく治療を続けていきましょう。
引用文献
1. 難病情報センター「指定難病患者への医療費助成制度のご案内」
2. 仙台市「指定難病医療費助成(指定医・指定医療機関含む)」
3. 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和7年度改訂版